1年で3度も栄誉を手にした巨人の“幸運児”も…異色の胴上げ投手列伝

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グラブとメガネが見当たらない

 リリーフエースが打たれたことから、急きょマウンドに上がり、思いがけず胴上げ投手になったのが、南海時代の江本孟紀である。

 2シーズン制がパ・リーグに導入された73年、前期を制した南海は、後期優勝チーム・阪急と2勝2敗の五分で10月24日のプレーオフ最終戦に突入した。0対0の9回、南海はスミス、広瀬叔功の連続アーチで2点を勝ち越し、優勝に大きく前進する。その裏、リリーフエースの佐藤道郎は、打者2人をいずれも外野フライに打ち取り、あと1人まで漕ぎつけた。

 ところが、「2死を取ったとき、グッとこみ上げてきて、何が何だかわからなくなってしまった」という佐藤は、次打者・当銀秀崇のカウント2-2をフルカウントと勘違いし、「歩かせてはいけない」と直球を真ん中に投じたところを右越えに本塁打を浴びてしまう。

 1点差に追い上げた阪急は、当時代打本塁打の日本記録に迫っていた高井保弘を送ってきた。一発出れば同点となり、流れは一気に阪急へと傾く。

 切羽詰まった南海・野村克也捕手兼任監督は佐藤をあきらめ、エース・江本をリリーフに指名した。胴上げ準備でベンチに控えていた江本は、慌ててキャッチボールを始めようとしたが、肝心のグラブとメガネが見当たらない。

 実は、胴上げの混乱で紛失しないようにと、関係者が気を利かせて、ロッカーに仕舞い込んでいたのだ。「早く取りに戻れ!」と新山彰忠投手コーチが若手選手をベンチ裏に走らせたが、なかなか見つからない。江本も「グラブは借り物でもいいが、メガネは……」と困惑の表情を浮かべる。

 上を下への大騒ぎの末、ようやくメガネが届けられた瞬間、ベンチ内で安堵のため息が起きたほどだった。

 ろくにウォーミングアップもできないまま、マウンドに上がった江本だったが、フルカウントからファウル2本のあと、高井を空振り三振に打ち取り、ゲームセット。

 思いもよらぬスクランブル救援で7年ぶりVの立役者になった江本は「(どんなピンチでも)いつでもイケますよ」と涼しい顔でコメントしたが、これが最初で最後の胴上げ投手となった。

1位、2位が共に引き分けで優勝決定

 85年の阪神・中西清起のように、引き分けで優勝が決まった試合で胴上げ投手になった例もあるが、自チーム、マジック対象チームのいずれも引き分けで優勝が決まるという珍しいケースで胴上げ投手になったのが、巨人の助っ人守護神、チアゴ・ビエイラである。

 マジック1で迎えた2020年10月30日のヤクルト戦、来日1年目のビエイラは、1点リードの8回2死からリリーフし、エスコバーに同点タイムリー三塁打を許したが、なおも2死三塁のピンチを無失点で切り抜け、9回もゼロで抑えた。

 そして、3対3の延長10回、2位・阪神がDeNAと引き分けたことから、巨人は引き分けでも2年連続Vが決まることになった。

 引き続き10回のマウンドに上がったビエイラは、1死後に安打を許したものの、2死三塁から村上宗隆を163キロ直球で見逃し三振に打ち取り、その裏の巨人の攻撃を待たずしてV決定。直後、ビエイラはマウンド上で胸を叩きながら雄叫びを上げ、喜びを爆発させた。

 ちなみに同年の巨人は、5連敗のあと、ヤクルト戦でも引き分け、1勝もしていなかったのに優勝が決まるという、これまた“珍事”となった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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