二枚舌外交を極める尹錫悦 米中二股にいら立つバイデンの「お仕置き」のタイミング
中国の議長には会ったのに……
NYTの質問は米下院のN・ペロシ(Nancy Pelosi)議長が8月に訪韓した際、尹錫悦大統領が会わなかったことにも及びました。
訪問先のシンガポール、マレーシア、台湾、日本ではいずれも首脳が会談しましたが、尹錫悦大統領だけは「休暇中」を理由に会いませんでした。
ペロシ議長のアジア訪問は、中国の侵攻の危機にさらされる台湾への支持表明でした。韓国は中国の顔色を見たのです(「訪韓したペロシとの面談を謝絶した尹錫悦 中国は高笑いし、米国は『侮辱』と怒った」参照)。
韓国内から批判が高まったので結局、電話協議を実施したのですが、同じソウルにいながら会わず電話だけに留めたので、「休暇中」との言い訳はますます胡散臭く映りました。
NYTとのインタビューで、尹錫悦大統領は中国への忖度を問われると「絶対にそれはない」と否定しました。これに対しNYTは9月16日、訪韓した中国・全国人民代表大会の栗戦書議長とは会ったではないかと指摘しました。栗戦書議長とペロシ議長は職位も同じなら、序列も3位と同じ。「言い逃れ」を厳しく追及したのです。
・Mr. Yoon called those suggestions “absolutely” untrue and said he was simply on a scheduled vacation. On Friday, though, Mr. Yoon met with Li Zhanshu, the head of the Chinese legislature and the third-highest-ranking member of the Chinese Communist Party.
「ペロシ面談拒否」が決定打
――「米国側に戻った」なんて嘘だぞ、とNYTは警告を発したのですね。
鈴置:「ペロシ面談拒否」が決定打となって、米国の韓国観は一線を超えた感があります。NYTだけではありません。米国の外交専門誌『THE DIPLOMAT』も8月27日に寄稿「Don’t Mistake South Korea’s Yoon Suk-yeol for a China Hawk」を載せました。
筆者は韓国外国語大学で東アジアの政治を研究するJ・アトキンソン(Joel Atkinson)教授。見出しを見れば分かる通り、「尹錫悦の対中強硬姿勢は信じるな」と訴えたのです。
「中国に忖度する」具体例としてあげたのが「THAAD」と「ペロシ」に加え、半導体同盟たる「Chip4」です。米国は、半導体産業に強みを持つ台湾、韓国、日本を糾合、Chip4なるカルテルを作って、中国の半導体分野での覇権を食い止めようと必死です。
韓国政府はその準備会合に参加すると表明済みで、NYTとの会見でも尹錫悦大統領もそれを確認しました。しかし、8月27日に中国政府との間でサプライ・チェ-ンに関するMOU(覚書)を交わしています。
中国共産党の対外宣伝紙、Global Timesが「China, S. Korea agree to deepen economic cooperation in ministerial meeting」(8月28日)で報じました。
仮にChip4に参加しても「対中包囲網」には加わらない、との姿勢を韓国は打ち出したのです。これは明確なChip4潰しです。韓国に詳しいアトキンソン教授が「尹錫悦を信用するな」と有力誌を通じ、米外交界に訴えたのも当然なのです。
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