メタノール中毒殺人事件 否認を続ける「北大卒エリート夫」を検察は有罪にできるのか
スマホに残されていたDVの証拠
だが、佳右容疑者は逮捕前の任意の取り調べの段階から一貫して、「メタノールを自宅に持ち込んだことも、妻に盛ったこともない」と否認を続けているのだ。
「当初の取り調べでは、妻と数年間不仲で家庭内別居状態にあったことは認めていた。佳右容疑者の不倫が疑われたことがきっかけのようです。容子さんの携帯電話には、佳右容疑者が激しい口調でまくし立てる動画や佳右容疑者の暴力が原因とみられるあざが映った写真も保存されていた。当初は否認していた佳右容疑者でしたが、いまは黙秘を貫いています」
この展開に捜査員たちは頭を抱えているという。動機はあれど、肝心のメタノールをどのように持ち出して、混入させたのかがはっきりしていないからだ。
「どうやら職場の薬物管理記録には、佳右容疑者がメタノール持ち出したという記録は残っていないようです。容子さんは自宅に常備してあった紙パックの焼酎を夕食時によく飲んでいたことがわかっており、警視庁は佳右容疑者がその焼酎の中にメタノールを混入させたと見ていますが、メタノールが付着した容器なども見つかっていません」(同)
捜査員たちの脳裏に浮かぶのは、2016年8月に文京区で発生した講談社元次長による妻殺害事件だという。
同じ密室内の「妻殺し」は「逆転無罪」の可能性も
事件が起きたのは、夫妻のほかに幼な子が4人しかいない自宅という密室だった。警視庁は事件から5カ月後の17年1月に、深夜1時過ぎに帰宅した講談社元次長の朴鐘顕被告が口論の末、妻の佳菜子さんの首を絞めて殺害したとして逮捕に踏み切った。
だが、朴被告は「妻は階段の手すりを使って自殺した」として容疑を否認。裁判でも一貫して争ってきた。一審、二審は有罪判決が出たが、今年6月30日に最高裁は、上告審弁論を10月27日に開催すると決定したばかりだ。
「弁論は二審判決を見直す場合などに開かれる手続きで、審理が差し戻しになり逆転無罪が出る公算が大きい。この事件でも、検察は状況証拠の積み重ねで有罪を立証したものの決定的な証拠がなかった。今回も起訴できたとしても、公判で同じような展開になるのではないかと恐れる声が出ています」
朴被告は京大卒であったが、佳右容疑者も北大と千葉大の大学院を卒業後、アメリカに留学経験もある秀才である。警察は状況証拠を積み重ねたうえで夫しか犯行を起こし得ないとして逮捕したと思われるが、否認を続けるエリート研究者を有罪に持ち込めるのか。
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