「不倫をしたが妻を傷つける気はなかった」 48歳夫が唯一“罪悪感”をおぼえる意外な女性とは

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誠意を見せなければならない日々

「私はどちらかを選んでほしいわけじゃなかった。ただ、奥さんが知らないところでこそこそしたくなかっただけ」

 半年後、絵里さんはそう言って去って行った。

「さて、そういうあなたを受け入れるかどうかは私の問題ね、と今度は春乃が言い出した。この話は僕の母親も知ってしまい、母は烈火のごとく怒って春乃に謝った。でも春乃は『お義母さんが怒る話でも謝る話でもないから』と冷静でした。僕は離婚はしたくなかった。そう言うと、『じゃあ、私の疑問に答えてくれる? これから何年続くかわからないけど』って。わかったと答えました。彼女は僕に謝れとは言わない。だけどあれから時間がたった今でも、『絵里さんは、こういうときなんて言うかしら』『絵里さんと連絡とれるとしたらとりたい?』など、不意に質問をしてくるんです。家庭にいても気持ちが休まることがない」

 とはいえ逃げられない。彼女の質問に答えて誠意を見せなければいけないからだ。

「たびたび質問されているうちに、これは春乃が傷を癒やすために必要なことなんだと最近、ようやくわかってきました。春乃は、僕の行為に二重に傷ついた。絵里と関係をもつことは、美香との関係の復活でもあったんですね。先日、『傷つけてごめん』と言ったら、春乃はいつものように『私はそんなに簡単に傷つくほどやわじゃないわよ』と言ったけど、そうじゃない、自分が傷ついていることを認めるべきだと言いました。彼女は気が強い自分を演じているんじゃないか……。そんな気がするんです。そう言ったら、わかったふうなこと言わないでよと怒られましたけど」

 この状態は続いていくのだろう。ときおり執拗な質問をぶつけてくる妻の気持ちが、いつかおさまるのだろうか。そう思いながら、実は晶一さん自身も、「絵里に去られたのは、美香にも去られたこと」だと感じて傷ついている。

 目の前の家庭を大事にしなければいけない。それはわかっていながらも、人はふと道を踏み外すことがある。善悪ではない判断が働いてしまうこともある。人の気持ちには、一般論をあてはめてもどうにもならないことがある。

 ***

 晶一さんは悩んでいる。だが、それは妻を傷つけたことへの贖罪ではない。恋人を失い辛い思いをしてきた自分が、またも苦しい目に会ってしまっていることに対する悩みのように見える。晶一さんの半生は、ある種の被害者意識に貫かれている。

「バレたらヤバい、でもきっと妻は許してくれるはず」というのが、不倫する男にありがちな思いこみだと亀山氏は分析していた。そこに被害者意識が加わったことで、より、晶一さんは妻を裏切ることに抵抗をおぼえなかったのだろう。

 唯一、晶一さんが罪悪感をおぼえているらしい場面があった。それは「恋人の美香さんを失ったやりきれなさを封印した」ことに対してだった。

 妻の春乃さんはもちろんのこと、絵里さんや、家族を支えてくれている母までをも傷つけた。しかし、晶一さんが罪悪感をおぼえるのは、いまは亡き人に対してのみ。自分が招いた状況にも「家庭にいても気持ちが休まることがない」と愚痴るだけ……。

 ただの「クズな男」か、いつまでも過去にとらわれる悲しき男か。あなたの目には、晶一さんがどう映るだろうか。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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