角川歴彦容疑者逮捕 対照的で「ド派手」な兄・春樹氏のコカイン逮捕劇との“ある共通点”
9月14日、出版大手「KADOKAWA」の角川歴彦(つぐひこ)会長(79)が、東京五輪・パラリンピックに絡む贈賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。スポンサー企業に指定してもらう目的で、大会組織委員会の高橋治之元理事(78)にコンサルタント会社を介して7600万円を渡した容疑である。同社はオリンピックで「公式ガイドブック」の作成などを受注。逮捕前、テレビ局の取材に歴彦は、「(賄賂の認識は)全くありません」などと悪びれずに話していた。贈賄の事実はあったのか。それとも金銭の授受はあったが犯罪とは思っていなかったのか。【粟野仁雄/ジャーナリスト】(一部、敬称略)
【写真】角川春樹氏(当時65)とロングヘアーの「21歳の恋人」のツーショット。このあと2人は顔を近づけ「チュッ」としてから別れた
華麗な経歴
歴彦は有名一族「角川ファミリー」の一員である。
一族で圧倒的な存在感があったのは、歴彦の兄・春樹(80)である。春樹・歴彦兄弟の父親は、著名な国文学者・俳人で角川書店を創業した角川源義(げんよし=1917~1975)。角川書店の分厚い「漢和辞典」を使ったことのある人は多いはずだ。
兄弟は不仲と言われたせいか「異母兄弟」の説もあるが、長女・真弓(筆名・辺見じゅん=後述)、長男・春樹、次男・歴彦の3人は、源義の最初の妻の子である。
兄弟の経歴を振り返ろう。
春樹は国学院大学を卒業後、1965年に角川書店に入社し、外国映画の原作本の翻訳出版に力を入れた。父・源義の死去により1975年に社長に就任すると、1976年に横溝正史が原作の映画『犬神家の一族』をヒットさせる。続く松田優作・主演『人間の証明』(1977)、薬師丸ひろ子・主演『野性の証明』(1978)も大ヒットした(どちらも原作は森村誠一)。映画と原作小説を結びつける商法は大成功し、俳人としても鬼才ぶりを発揮した。
一方、弟の歴彦は早稲田大学政治経済学部を卒業した1966年に角川書店に入社。1970年代にNHKで放送された人気番組『日本史探訪』の書籍化などで評価された。1973年に取締役、その後の専務職が長かったが、1992年に副社長となった。サブカルチャーや若者文化、新メディアにも着目して子会社の「角川メディアオフィス」の社長も務め、情報誌『ザテレビジョン』『東京ウォーカー』でも成功を収めた。
コカインで逮捕
しかし、運営方針の違いから、次第に兄弟は対立する。
1992年、社長の春樹は「弟はもう角川書店の人間ではない」と歴彦を事実上、追放した。歴彦は「主婦の友社」の協力を得て、賛同者を引き連れて別会社「メディアワークス」を興し、雌伏していた。強引な独裁タイプの兄と違い、何事にも丁寧な歴彦は人望もあり、メディアワークスの大半のスタッフは角川書店から彼についていったといわれる。
ところが春樹は、思わぬことで弟に社長の椅子を明け渡すことになる。1993年8月29日、麻薬及び向精神薬取締法違反や関税法違反など の容疑で千葉県警察本部(千葉南警察署)に逮捕されたのだ。出頭に応じず、県警は逮捕状を手に杉並区の自宅に踏み込み、連行する異例さだった。
同年7月、角川書店の係長の男がコカインを密輸入しようとして成田空港で逮捕され、「社長が使うコカインの入手のために頻繁にロサンゼルスに買い付けに行っていた」と供述していた。春樹は容疑を否認していたが、薬物鑑定で髪の毛からコカイン成分が検出され、9月19日に前述の容疑で起訴された。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった「時代の寵児」の逮捕で出版界と映画界に激震が走る。
この年、可愛らしい恐竜と女の子が主人公の映画『REX 恐竜物語』が全国公開され、興行成績は順調だった。しかし、監督・脚本を務めた春樹の逮捕で異例の上映中止となってしまう。主演は本作で10歳にして銀幕デビューを果たした安達祐実である。
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