夏ドラマNo.1は「石子と羽男」 視聴者の支持を得た“3つの理由”
TBSの連続ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(金曜後10時)が最終話を迎える。7月期で屈指の支持を得た作品である。どうして人気作となったのか。その理由は大きく分けて3つあると考える(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。
「石子と羽男」は第1に脚本が出色だった。
パラリーガルの石子こと石田硝子(有村架純)と弁護士の羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)を主人公とするリーガルドラマなので、毎回、身近で起こり得る事件や問題が題材になっている。2人が事件や問題の解決を目指す。これが物語の縦軸だ。
一方で横軸にはさまざまな「愛」が織り込まれている。実は「愛」がメインテーマと思えるくらい。だから視聴者の胸に刺さり、支持を得たのだろう。
第1話「窃盗罪/カフェで携帯を充電したら訴えられた!?」で描かれたのは大庭蒼生(赤楚衛二)と同僚・沢村篤彦(小関裕太)の友愛。第2話「未成年者取消権/小学生がゲームで29万課金!?」で映し出されたのはシングルマザー・相田瑛子(木村佳乃)と1人息子・孝多(小林優仁)の母子愛だった。
第3話「著作権法違反/映画違法アップロードで逮捕!?」では映画監督・山田恭兵(でんでん)の仕事愛が表された。第4話「救護義務違反/依頼人は本当にひき逃げ犯?」は堂前絵実(趣里)と一奈(生見愛瑠)の姉妹愛、検事・羽根岡優乃(MEGUMI)と羽男の姉弟愛を描写した。
以降もそう。第5話「相隣紛争/ご近所トラブルに隠された謎…」は熟年世代の恋愛、第6話「告知義務違反/幽霊マンションから夫婦を救え」は家族愛、第7話「傷害罪/弁護士はスーパーマンじゃない」は家出少女同士の友愛、第8話「ウェブサイト情報削除請求/グルメサイトに載った情報を削除せよ!」は父子愛、第9話「放火殺人/仲間が放火で逮捕!?最大の事件が始まる」は兄弟愛がそれぞれ描かれた。
リーガルドラマの大半は勝った負けたが中心で、時に物語が刺々しくなる。だが、このドラマは違う。「愛」を織り込んだことで作風をハートフルにすることに成功した。
また、リーガルドラマの弁護士の多くは法律を「武器」と捉えているが、羽男と石子は違う。石子は第1話で「法律は人間関係を円滑に送るためのルール」と強調した。これが作品全体に通底する考え方だったのだろう。
訴訟を望まない
この考え方は番組タイトル「-そんなコトで訴えます?-」ともつながる。石子と羽男はリーガルドラマの主人公でありながら、訴訟を積極的には望まなかった。ルール(法律)に沿った話し合いで解決しようとした。
第5話が象徴的だった。お互いが相手を思うあまり、誤解が生じ、重野義行(中村梅雀)と有森万寿江(風吹ジュン)が隣人訴訟になりかけたが、2人がそれを防いだ。重野と万寿江の関係修復にも一役買った。
2人が訴訟を好まないから法廷シーンも少ない。放送済みの9回のうち、3回のみ(第3話、第4話、第7話)。うち、第3話と第4話は羽男が刑事被告人の弁護を引き受けたものだから、2人が訴訟を起こした側ではない。
第7話は2人が民事訴訟を起こしたものの、これは羽男がキッチンカーのメニューに自転車でぶつかってしまい、その店主・サティヤム(ラジャS)から「車のミラーを壊した人物に弁償させてほしい」と頼まれたから。行きがかり上、引き受けた。
また、この民事訴訟はただの裁判ではなかった。2人が知り合った家出少女・美冬(小林星蘭)が、継父・東辰久(野間口徹)に暴力で支配されていたため、それを刑事事件の傷害罪で告発するという最終目的があった。
そんな2人が所属するのは町の小さな弁護士事務所「潮法律事務所」である。所長は石子の父親でやはり弁護士の潮綿郎(さだまさし)。潮のモットーは「雨で濡れてビショビショに濡れている人を見たら、傘を差し出すでしょう」(第1話)。ろくに手数料も取らず、法律弱者を助け続けている。
綿郎の考え方に当初の石子は否定的だった。死んだ母親が苦労させられたためだ。しかし徐々に感化される。いや、本当は最初からソックリだったのだ。母親に負担を強いた綿郎に抗っていただけである。
それを認めたのは第8話。「弁護士としてのお父さんはやっぱり私の憧れです」(石子)。綿郎と石子の父娘和解劇もリーガルドラマとは思えぬハートフルな展開だった。口にはしないものの、羽男も綿郎を尊敬しているのだろう。
石子と事務所の元アルバイト・大庭蒼生が交際中だが、恋愛要素を抑え気味にしたのも功を奏した。恋愛要素を厚めにしていたら、全体的に薄味になってしまったはずだ。
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