「熊谷6人殺害事件」から7年 妻子を喪った遺族が語る「生きる道を教えてほしい」

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「非なら非で認めてください」

 冒頭の発言は、事件発生から2ヶ月半が経過した15年11月下旬、加藤さんが県警本部捜査一課長らを相手に、捜査上の不備を訴えている場面だ。国賠訴訟の原点ともなるやり取りである。その場で加藤さんは、ICレコーダーを衣服の中に忍ばせていた。すでに埼玉県警の対応に不信感を募らせていたためだ。その録音データからは、やり場のない遺族の怒り、悲しみ、そして無念の思いがリアルに響いてくる。

「6人の命をなんだと思ってんですか? 遺族からすれば今後の対策なんて聞きたくない。それよりもあの時に何をしてあげればよかったのか、警察官として考えるべきじゃないですか?」

 この問いかけに捜査一課長は「本当におっしゃる通りです」としか、返す言葉がなかった。すかさず加藤さんが畳みかける。

「非なら非で認めてください。ちゃんとやったから問題ないなんて、そんなことで片付けられたらこの6人は報われないです。そういう気持ちで(仕事を)やっているんだったら警察官やめてもらったほうがいいです。これから埼玉県民を守っていけないと思います」

 加藤さんと捜査一課長の間で議論になっているのは、地域住民に対する埼玉県警の情報提供、そして、注意喚起のあり方だ。

 事の発端は9月13日に遡る。ナカダは市内の民家敷地内に侵入し、熊谷署に任意同行された。ところが聴取の途中、パスポートなどの所持品を置いたまま、屋外喫煙所から走って逃げた。その後、付近の民家2軒で「外国人が侵入した」との通報があり、熊谷署は捜査員20人態勢で、警察犬も出動させて捜索。しかし、ナカダを発見できず、翌14日に1件目の50代夫婦殺害事件が起きた。

 その時点ではナカダが殺人犯だとは特定できていなかったが、13日からの一連の不審な行動、逃走中の状況を踏まえると、ナカダが容疑者で、事件が続発する可能性はあったはずだ。

 ところが、埼玉県警は報道機関への広報や教育委員会を通じた小中学校への情報提供を行うに留まり、防災無線を使うなどの注意喚起まではしなかった。それによって住民たちの防犯意識が高まらず、2件目の80代女性刺殺、そして加藤さんの一家3人殺害につながったというのが加藤さんの主張だ。事件続発を阻止するために埼玉県警は徹底的に手を尽くしていなかったと猛烈に批判しているのである。

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