「ちむどん」失敗の研究 視聴者を釣り上げ、結末は薄い展開は理解不能
略奪より愛との友情を踏みにじったことが問題
2人とも東洋新聞記者だった。一方、暢子は同社のボーヤ(編集補助職員)。勤務先「アッラ・フォンターナ」のオーナーで大叔母の大城房子(原田美枝子)に命じられ、一時的にボーヤをしていた。
愛は暢子にやさしくしてくれた。暢子にとって愛は上京後に出来た唯一の友人だった。ところが暢子は裏切る。
「泣いた赤鬼」や「こころ」などを読んで育つ日本人は創作物の友情に高貴性を求める。それなのに暢子は和彦を奪うことで友情を踏みにじった。おまけに悪びれもしなかった。忖度ができないから愛の失意も酌み取れないままだった。
暢子は愛にこう約束していた。「(ウチも和彦君が)好きだけど、きれいさっぱり諦める」。結果的にウソまで吐いたことになる。そもそも友情を軽く考えていたから、愛との約束も重く思わなかったのではないか。こんな人物に共感するのは難しい。自分と家族さえ良ければ他人はどうでもいい。暢子はそんな人間にすら見えてしまう。
このキャラを主人公以外にやらせるのなら分かる。だが主人公は無理だ。民放やNHKのほかのドラマでも主人公にはなれない。主人公はワルであっても共感されなくてはならない。
視聴者を釣るような展開
第21週「君と僕のイナムドゥチ」の第103話で歌子に気があるような砂川智(前田公輝)がトラックにはねられたという話になった。ヒヤリとさせられた。万一、若くして亡くなったら、ドラマとはいえ悲しい。
ところが、次の第104話で智はトラックをよけ、そのはずみで頭を打っただけと分かる。その後、この騒動を心配した歌子と智の仲が急接近するのなら分かるが、それもなかった。一体、この騒動にはどんな意味があったのか。
この一件のように「視聴者を釣り上げ」、「結末は薄い」というような展開をこの朝ドラはたびたび採用する。理解できない。暢子のキャラにはたびたびイラッとさせられるものの、視聴者を釣らなくたって、愉快なドラマであるのに。
例えば第18週「しあわせのアンダンスー」で賢秀と良子が青柳重子(鈴木保奈美)を訪ねるエピソードは面白かった。和彦と暢子の結婚を反対していた重子に対し、許してくれるよう懇願した。
ところが、賢秀が勝手に重子のオルゴールをいじってブッ壊したり、2人でケンカを始めてしまったり。暢子の足を引っ張っているようで笑えた。喜劇の教科書通り。王道だった。
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