年末までに円高になる可能性 その根拠は

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1998年と似た展開に?

 問題なのは円安による輸入物価の高騰だ。企業努力で販売価格を抑えられる段階を超え始めており、消費者物価に波及するのは時間の問題だ。

 帝国データバンクは「今年10月に値上げされる商品は過去最多の6532品目に上る」との調査結果を発表している。伸び率は欧米ほどではないにしても、長らくインフレと縁遠かっただけに、日本の家計にとって厳しい秋になることが懸念されている。

 現下の情勢は「円安がさらに進む」との見方がコンセンサスになっているが、筆者は「年末までに円高に転じる可能性がある」と考えている。

 足元の円安を「円の信認の低下」と捉える向きが多いが、円安が進行した直接の引き金は米国での巨額の社債発行(500億ドル規模)だとみられている(9月7日付ロイター)。

 FRBが今月から量的引き締め(QT)を加速し、米国内のカネ不足が進む中、ゼロ金利で資金を調達した円をドルに換え、社債を購入する動きが生じた可能性が高い。いわゆる、円キャリートレードだ。

 2011年の東日本大震災後の日本は1ドル=70円台という超円高となった。海外の資金(ドル)を売却して国内に資金が回帰したこと(円キャリートレードの反転)がその要因だと言われている。

 振り返れば、1998年も現在と同じような状況だった。1996年1月に1ドル=105円だったが、1997年から98年にかけて発生した日本の金融危機のせいで、1998年8月には1ドル=147円台にまで円安が加速した。

 このまま円安が進むかと思われた矢先に、ロシアの財政危機が表面化した。原油価格の低迷がロシア経済を直撃したことが要因だった(1998年6月の米WTI原油先物価格は1バレル=11ドル台だった)。

 当時、ノーベル経済学賞を受賞した学者が運用に携わる大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)はロシア国債など新興国の債券に投資する一方、米国債を空売りしていたが、レバレッジの高いやり方をとっていた。レバレッジとは担保として預けた証拠金の何十倍にも相当する資金を借り入れて取引を行うことを指す。

 ところがロシア危機でこうしたハイリスクの投資策が裏目に出てしまい、米国経済を揺るがすほどの経営危機となってしまった。為替市場も激しく動揺し、その後3ヶ月弱で1ドル=108円台まで円高が進行した。

 2002年前半も円安が進んだが、米国の金融市場が不調になったことを転機にその後円高が進行したという経緯がある。

 世界の金融市場が変調をきたせばキャリートレードの流れが変わり、円安から円高に変わる可能性が生じるが、現在、その火種はあるのだろうか。

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