事務所退所で「SNS」閉鎖を迫られるタレントたち アカウントは誰のものか?弁護士に聞いた

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アカウントは誰のもの?

 そもそも芸能人SNSアカウントは本人のものなのか。それとも所属事務所のものなのか。SNSに詳しい「骨董通り法律事務所」の出井甫弁護士に話を聞いた。

「まず現行法上、SNSアカウントに対する権利は明記されていません。そのため、タレントが使用しているSNSアカウントの運用は、基本的には事務所とタレントとの契約や、TwitterやインスタグラムなどのSNS事業者とユーザーとの契約に依拠することになります」(出井弁護士)

 タレントのSNSアカウントには主に3つのパターンが考えられる。

 まず第一に、事務所に所属する前から持っていたアカウントをタレントが使う場合だ。出井弁護士によれば「SNS事業者と締結した当事者はタレントと考えられますので、SNSアカウント自体もタレントのものと評価し得ます」という。

 第二に、タレントが事務所に所属した後に、自らアカウントを作成する場合だ。前述のグラドルAさん、アナウンサーのCさんはこのケースにあたる。この場合も、SNS事業者と締結したのはタレント自身となるため、SNSアカウントはタレントのものと言える。

 ただ事務所との契約書で、芸能活動で生じた権利(写真、DVD、楽曲、実演など)は事務所に帰属すると書いてあるケースが多く「SNSにおいても、事務所で撮影した肖像写真や芸名等を掲載している場合、これらを退所後も使用することができるかどうかは、事務所との交渉に委ねられる」(出井弁護士)という。

 そして最後に、事務所がアカウントを作成し、そのアカウントをタレントに提供する場合だ。アイドルグループに所属していたBさんがこれにあたる。このケースではSNSアカウントは「事務所からタレントに与えられた貸与物」と評価され、SNS事業者と締結した契約の当事者も事務所と考えられるため、アカウントは事務所のものと言えるという。

 ただしその場合でも、SNSの運用への寄与度も考慮すべき場合があると出井弁護士は話す。

「例えば、SNSへの投稿や管理等をタレントがほぼ行っている場合や、投稿コンテンツの制作をタレントが行っている場合、そのアカウントがタレント本人のものというのは難しくとも、SNS閉鎖に伴い対価を主張することはできるかもしれません」

閉鎖の強制は「独占禁止法違反」の可能性も

 では、事務所を辞める際にアカウントを閉鎖するよう迫られた場合、タレントは必ず従わなければいけないのだろうか。

 出井弁護士によれば、事務所側が退所の交換条件にSNS閉鎖を求めることは独占禁止法違反の可能性があるという。

「公正取引委員会は、移籍や独立を諦めさせたり、出演先に圧力をかけるなど退所後の芸能活動を制限することは、法的に問題があると述べています。その上で、現在、SNSはタレントにとって重要な表現ツールです。退所後にSNSの使用を禁じたり、従来使用していたSNSの閉鎖を強要することは、退所後の芸能活動を制限するとも評価し得ますので、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する可能性があります」

 事務所に入る際の契約書に、退所時にSNSを閉鎖することが明記されていた場合は、本人がそれに合意している以上、原則的には従う必要があると思われるが、実際には退所の条件としてSNSの閉鎖が明記されていないケースがほとんどだ。

 逆に契約書にSNS閉鎖が明記されていない場合や、閉鎖が明記されていてもSNSの運用を任せておきながら、それに対して適正な対価が払われていない場合は、優越的地位の濫用と考えられるため、SNS閉鎖の要求を拒むことができるという。

「独占禁止法違反の成否は、双方が合意しているかどうかによって左右されません。そのため、退所の際にSNS閉鎖を解除合意書をもって合意したとしても、その条件がタレントの今後の芸能活動を制限する効果をもたらすのであれば、同様に違法性が検討され得ます」

 芸能界では契約に不慣れな若い人が、事務所側の大人に言われるがままに契約してしまうケースが少なくない。まずは入所の際には契約書をよく読み、疑問に思った場合や、退所の際にスムーズに辞めさせてもらえない場合は、知識を持つ弁護士に相談するのがよさそうだ。

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮編集部

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