京都大学野球部を“闘う集団”へ…元プロの監督が「優勝する」と唱え続ける深い理由
チームのためなのか、自分のわがままなのか
京大が今、野球で大きな注目を浴びている――。近大、立命大、関西学院大、関西大、同志社大との6校で構成する「関西学生野球連盟」で、京大は「最下位」が半ば定位置。1982年のリーグ発足以来、5位になったのは5度だけ、最高順位は2019年秋の4位で、優勝はおろか、3位以上のAクラスに入った経験すらない。
ところが、21年11月に元プロ野球選手の近田怜王(32歳、報徳学園→ソフトバンク→JR西日本)が就任すると、チームが一変する。22年の春季リーグ戦で、21年秋の優勝校・関大から勝ち点を挙げると、立命大からも20年ぶりとなる勝ち点を奪い取った。いかにして、近田は京大を「闘う集団」へと変革していこうとしているのか。そのキーワードは「目指すのは優勝」という、ぶれない大前提にある。前編に続き、後編では、勝つための“創意工夫”を追っていく。(文中敬称略)
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近田は、リーグ戦開幕前のオープン戦での、ある出来事を明かしてくれた。メンバーに選ばれながら、試合では使われなかった選手が試合後、近田に“異議”を申し立ててきたのだという。
「なんで僕、今日来たんですか? これなら、練習していた方がよくないですか?」
個々人の思いは、同じ野球人として、近田にも重々分かる。それでも『優勝』という大前提に照らし合わせて、自らの行動を考えさせるという方向に持っていくのだ。
「それは『チームの戦っているときに、自分を生かせる状況がなかっただけだ』と。だから、こちらも使えなかった、出場できなかっただけだよと。『せっかく来ていて……』みたいなことを言ってくるんで、『じゃあ、チームがリーグ戦で勝つために、どこで自分を生かしていくのか? そのための準備をしているのか?』と聞いたら、していないんですよね。ただ試合に出て、打って、守って、活躍して、やったー、というのをしたいだけ。『自分を使ってくれへん』とか『僕はこう思います』というのは、チームのためなのか、自分のわがままなのか。そういうところをはっきりしようと。そこはめちゃくちゃ厳しくやります。そういうことを表現する選手には、徹底的に言いますね。『競争しているよ、みんな試合に出たいよ』と」
分からなかったら聞いてこい
チームが優勝するために、自分は何をすべきか。その大前提からスタートして物事を考えていけば、おのずと自分のやることは見えてくる。
他校のように、突出した個の力があるわけではない。ならば、チーム一丸となって、それこそ束になって、強敵たちに立ち向かわなければ通用しない。
「決めつけはよくないですけど、やっぱり今時の子って、与えられ過ぎているんです。何でも準備してもらっているというのが、節々に見えるんですが、僕は与えません。出場機会が欲しければ、自分でアピールしてきなさい。それは、人の仕方でそれぞれだから。その代わりに、僕はずっと見といてあげる。分からなかったら聞いてこい、自分の中で『?』が浮かぶんやったら、遠慮なく聞いてこい。聞かない方が損やぞ、という風にはいつも話をしています」
そこに、自分たちの“アドバンテージ”ともいえる『考える力』をアレンジするのだ。他校の分析にも、京大らしさがにじみ出ている。
まず全選手を5班に分け、リーグの5校をそれぞれに担当させ、すべてのデータを取らせるのだという。
試合中、近田の傍らにいる背番号「51」は4年生の学生コーチ・三原大知だ。データ分析を行う「アナリスト」の肩書で、近田が監督として初采配をふるった22年春は、投手起用に関しても、三原に一任していたという。
元プロの投手だった近田に、三原が助言するという、一見奇妙な関係でもある。
「僕も三原もデータや情報を見て、常に『どう思う?』とやり取りはしているんで、任せてもいけるな、と。彼も、プロ野球のアナリストになりたい、プロ野球界に行きたいという話をしているんで、プロ野球選手っていうのは、絶対にデータだけ持ってきて、やったことないのに、そんなのだけ語る人間は絶対に受け入れへんから、選手はできなくても、ちょっとでも選手のことを理解して、選手に近い関係、数字だけじゃないという経験をしていた方が絶対に生きるよと。だからお前、51をつけて、ピッチャーを任せるから、自分の将来に生かせるために経験しておけ、って。それでさせています」
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