京都大学野球部はなぜ強くなったのか? 元ソフトバンクの近田怜王監督が明かす“変革の秘密”

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「あ、そういうことなんだ」

 その時に、どうしても『不足』しているのが、負けることが許されないようなシビアな実戦経験なのだという。

「京大生は、シミュレーションとかが好きですごくやるんです。実際の場面を言って、そこに落とし込んで想像させる。シミュレーションって、いい意味で、ちょっと誇張するということなんですね。それでもやろう、挑戦するっていうのは、そういうことなんですけどね。結局、守備隊形にしても、これは前進守備だ、これは後ろだと言うんですが、じゃあ、なんで、前進なの? 後ろなの? と言ったときに、前進したら守備範囲が狭くなって、点を取られる可能性は高くなる。じゃあ、後ろで、って言うんですけど、それって、1点取られても、まずこのアウトを取った方が、後々プラスになるから後ろなのか、それとも、どうしても点を取られたくない、これで負けが決定してしまう、向こうに勢いを渡してしまうのがイヤだからという“マイナス思考”からの後ろなのか、というところまで聞くと、結局“マイナス思考”なんですよ」

 そこに、近田の豊富な経験から出て来るエキスを注入してやるのだ。

「僕らのように、甲子園とかプロに行ったという人間の経験値として、そこは『このイニングのそこで守りに入ったら、絶対に乗り越えられへん』と。ここは絶対に守るところ、イケイケ、勢いでいくところじゃないといった、そういう方向性を示してあげるんです」

 そうすると、選手たちは聞く耳を持つ。

「自分らになかった発想で『あ、そういうことなんだ』と。結局、僕が監督になったのも自分たちが勝ちたいからなんです。でも、自分たちだけでは勝てないから僕が来ている。勝つっていうのは、そういうところだよという言葉の使い方をすると、彼らも『あ、そうだ』ってなりますね」

 そのための大前提が『優勝』なのだという。(後編へ続く)

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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