京都大学野球部はなぜ強くなったのか? 元ソフトバンクの近田怜王監督が明かす“変革の秘密”
“納得するための作業”
近田の高校時代、つまり10年ほど前までは、監督やコーチ、先輩ら、目上の人たちの“言った通りやれ”的な指示は、それこそ当たり前のようにまかり通っていた。その“理屈じゃない”という言葉では表せない部分を、指導者のカリスマ性や、甲子園に何度も出場しているという伝統や実績をタテにして、乗り越えさせてしまう。
それは、言うことを聞いていれば、いい結果につながるんだから、という図式でもある。理不尽だ、意味が分からない。数々の不満はあるだろう。でも、最後まで頑張ってみれば、好結果が伴い、すべてが報われる。そうした根性論、精神論のたぐいを、かつての野球界はことのほか重視してきた感が否めない。
ただ、ここには説明のプロセスが完全に抜け落ちている。近田は、自らの経験から、この“納得するための作業”を、京大で重視している。
「自分たちで考えるんだ、やるんだ、という風土は、もともと京大にはあるんです」
理詰めで物事を考えていくという、手間の掛かりそうな、面倒くさそうなそのプロセスですらも「京大生はめちゃくちゃ、大好きなんですね。しかも、基本的に京大生と言う前に彼らはみんな野球が大好きなんで、いろいろ、ホントによく見ているんです」
言い訳をさせない
他校のように、高校時代に甲子園で活躍した選手などがいるわけではない。そんな選手たちがいるチームと戦うのだから、簡単に勝てるわけがない。それでも、あえて京大で野球をやりたいという情熱は、野球が好きだという強い思いの裏返しでもある。
「だから、僕が一番強調しているのは、とにかく『言い訳をさせない』ことなんです。自分たちでこうしたいと決めて、こうしようと決めたことは、言い訳せず、責任を持ってちゃんとやり切りなさい、という話だけなんです」
京大のミーティングは、実に細かい。試合のシミュレーションは、まず「何対何のゲームを理想として戦うか」という前提からスタートするのだという。
「例えば、5-4。じゃあ、その5点をどうやって取るか、その4点は、どうやって取られたか。何回にどういう点の取られ方をしているのか、というのをまず話し合います」
選手たちが、それぞれに意見を出し合う。こんな感じで勝ちます、という流れが出て来たところで、近田が細部にわたって、疑問や問題点を指摘していく。
「節々に、抜けているところがあるんですね。点の取られ方も、四球が出て、送りバントを決められて、ヒットを打たれて1点返されました、と。それはそれで、セオリーとしてあることなんですけど、じゃあ、その1点を未然に防ぐためにどうするのか。四球はピッチャーだし、送りバントのところのシフトやそのケアはどうなのか? 何が原因で、点を取られたのか。相手の足なのか、ウチのミスなのか。何が必要かを詰めていくんです」
[2/3ページ]