高校野球が抱える「優勝校の偏在」と「選手レベルの二極化」という深刻な格差問題
「野球塾」の存在
関東の強豪校では、まだ寒い春先の時期に沖縄や九州に遠征に行くチームも多い。筆者は、取材で「遠征する目的の半分は、有望な中学生をスカウティングするためだ」と、関係者から聞いたことがある。硬式野球のクラブチームの全国大会はもちろん、各地で行われているローカルな大会で、高校野球関係者の姿をたびたび見かけることもある。
もう一つ、高校球界が抱える“格差問題”は、「選手レベルの二極化」である。日本高等学校野球連盟が毎年発表している野球部員は、子供の人口減少よりもはるかに速いスピードで減っていることはよく知られている。中学生、小学生年代もそれは同様である。
その一方で、保護者が野球に熱心な場合は、子供の頃からチームに入るだけでなく、「野球塾」と呼ばれる野球個別レッスンに通っているケースは増えているという。
「以前は、中学まで部活として野球をやっていた選手がほとんどで、公立高校でも飛びぬけた子はいなくても、それなりに野球ができる子が多かったように思います。それが、最近では中学でクラブチームに入っていた子と、学校の部活でやっていた子の差が大きくなりました。彼らに話を聞いてみると、中学の野球部では9人揃わずに、ほとんど実戦的なことができていないという子も多いです。高校でも(1校では9人揃わず、複数の学校で大会に出場する)連合チームが増えていますが、中学はもっとそれが顕著になっています。トップの学校には英才教育を受けてきたエリートが集まり、それ以外の学校は、満足に試合ができなかった選手だけになる。中間層が抜け落ちて、どんどん二極化は進むことになりそうですね」(公立高校の野球指導者)
格差が拡大する危険性も
今年の夏の甲子園では初出場校が4校あったが、いずれも春の選抜は出場経験がある学校で、春夏通じて初出場の学校は「0」だった。こうした点も、選手レベルの二極化を物語っている。
ほかにも、春夏の甲子園のみならず、それぞれの都道府県内でも強豪校は限られるようになっている。長年、夏の甲子園に連続出場を果たした聖光学院(福島)や作新学院(栃木)、明徳義塾(高知)などは、その最たる例と言えるだろう。
少子化が進み、今後、中学校の部活動も外部への委託が中心になれば、新たな金銭的な負担が増えて、野球のような用具などに多くの費用がかかるスポーツに対する敷居が高くなる恐れもある。そうなれば、高校野球の“格差問題”はより酷くなる可能性が出てくるだろう。果たして、高校野球は社会的な影響力を維持できるのだろうか、今、大きな岐路に立っている。
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