韓国人がウォンを売り始めた 政府が「通貨危機は来ない」と言うも信用されず
「政府を信じて」と訴えた大統領
――こんな記事を読んだ国民はぎょっとしたでしょうね。
鈴置:尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は直ちに反応しました。この新聞が配達された9月2日朝、出勤途中のぶら下がり会見で以下のように語りました。聯合ニュースの「尹、『対外債務の健全性を大げさに心配する状況ではない…政府を信じて欲しい』」(9月2日、韓国語版)から発言を拾います。
・昨日の夕刊と今日の朝刊を見ると、史上最大の貿易赤字を扱っている。我が国は8月に史上最大の輸出を記録した。しかし、ウクライナ事態をはじめとする供給網の不安により、原油と原材料の輸入価格が急上昇したため、商品交易での貿易赤字幅が大きくなった。
・[今年は]サービス部門を含む経常収支においては約300億ドル以上の黒字を見込んでいる。
・原発・防衛産業、特に海外建設の受注に拍車をかけ、中長期的には輸出規模をさらに大きくする戦略を立てる。国民の皆さまにおいては政府を信じ、不安に陥る必要はないだろう。
「貿易赤字は短期的な現象」と安心させたのです。経常収支に言及したのは「貿易収支が赤字でも、それ以外の稼ぎも含めた経常収支が黒字だから通貨危機には陥らない」と強調する狙いでした。
怪しげな「経常黒字300億ドル」
――国民は「政府を信じた」のでしょうか。
鈴置:信じませんでした。何せ、肝心のウォンが下がり続けているのです。9月7日には不気味な統計も発表されました。「2022年7月の国際収支(暫定)」です。
モノの動きから輸出入を見るのが通関統計。これに対し、おカネの出入りを記録するのが国際収支です。この一部が大統領も言及した経常収支で、この統計には通関統計の貿易収支に相当する「商品収支」という項目があります。
韓国の場合、貿易収支とは異なって商品収支は黒字を続けてきたのですが、ついに7月、11・8億ドルの赤字を出しました。2012年4月以来、10年3カ月ぶりの赤字です。これにより尹錫悦大統領が約束した「300億ドルの経常黒字」への疑念がわいたのです。
今年1月から7月までの累計の経常黒字は258・7億ドル。うち、サービス収支は8・4億ドルの黒字に過ぎず今後、外国旅行への規制が緩和されるにつれ、赤字化すると予想されています。
配当や利子の出入りを見る第1次所得収支も累計で79・8億ドルの黒字とはなはだ頼りない。8月以降、商品収支の赤字幅が膨らめば「300億ドルの公約」の実現は危なくなります。
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