香川照之が心待ちにする「反撃の時」 行定監督に執着し続け「倍返し」した過去も
親の名前を出すと手のひら返し……いびつな「梨園の家系の生まれ」としての光と影
過去に対する執念というのは、香川さんの成功を語る上では外せないキーワードかもしれない。特に、父である二代目市川猿翁との確執が有名だ。とはいえ、絶縁を経て関係を修復し、市川中車を襲名して歌舞伎界にも進出を果たした。さらに長男も五代目市川團子としてデビュー。一部報道では前妻や長女を不安定な精神状態にさせても、息子を歌舞伎役者にすることにこだわったといわれている。
もともと俳優になるつもりは全くなく、両親もやっているから役者の道に進んだという香川さん。現場を知るためにADの仕事を始めたのも、母親の口利きだったそうだ。親の名前を明かして入ったわけではなかったが、両親が誰だか知ると「みなさん態度が変わった」とのこと。「芸能界の縮図だ」と感じた、と出演したラジオ番組で語っていた。
自力で合格を勝ち取った東大生という地位も、芸能界では何の威力ももたない。でも何となく始めた俳優業は、大河ドラマで初出演が決まる。今のやる気や努力より、誰の息子として生まれたかという過去で力関係が決まる芸能界。頭のいい香川さんのこと、理屈でどうにもならないことに抗うことのムダさと苦しさを瞬時に理解したのではないだろうか。そして次々と出てくる悪評を見ると、自分の周りの人々もその理不尽の渦に巻き込むことで、自身の苦悩多き立場を正当化したかったのではとさえ思うのである。
目下の人間に繰り返す理不尽な行為の数々……「倍返し」精神が生んだ功罪
銀座ホステスへの性加害の他、元マネージャーへのパワハラ疑惑にドラマスタッフへの暴力、共演したジャニーズタレントへのイヤミ発言などが次々と報じられている香川さん。自分に逆らえない相手に対する狼藉は、被害者だけではなく、周りにいる関係者への力の誇示とも取れる。どんなに理不尽だろうと、実績も後ろ盾もある自分は決して非難されないという芸能界の縮図を再生産するような行為。時代やコンプライアンス意識がどんなに変わろうと、自分を生み、そして苦しめた芸能界の本質は変わらないのだと確かめたかったのかもしれない。
一方で、過去に対する執念は彼を名優にすることにも貢献した。もし父親への葛藤や、行定監督への恨み節をさっぱり捨てられるようなタイプであれば、第一線で活躍する俳優としてここまで続いていないのではないだろうか。アイツを見返したい、アイツに認めさせたい、アイツの周りの人間にも頭を下げさせたい。まさに半沢直樹もびっくりの「倍返し」精神は、たくさんの被害者を生む一方で、ひとりの名優を生み出したともいえる。
過去に縛られて倍返しをし続けた香川さんが、過去にしっぺ返しをされた今回の騒動。いまは香川さん叩きが過熱しているものの、過去の例を見るに、香川さんは自分の敵に回った人物を決して忘れることはないだろう。何より、念願の歌舞伎界入りを果たした最愛の息子の未来に傷をつけるような相手は許さないはず。「カマキリ先生」としても親しまれていた香川さん、カマキリのごとく反撃の瞬間をじっと待っているのではないだろうか。
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