「上智大生殺人事件」から26年 被害者の父親が語る「決して犯人逮捕をあきらめない」

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「家族の中で生き続けている」

 取材に訪れる記者たちから「平成生まれ」と聞かされると、やはり隔世の感を禁じ得ない。

「若い世代が記者として活躍する時代です。発生時はみんな生まれたばかりだから事件のことを知らなかったでしょう。さすがに26年も経てばこうなるのは目に見えていますが、あらためて月日の流れを感じますね。とはいえ我々は常に犯人を追いかけていますし、決してあきらめていません。時効が撤廃された今、逃げ切ることはできない。覚悟を固めて出頭すべきだ」

 賢二さんは今年の命日も、事件現場の最寄りとなる京成電鉄柴又駅前で、情報提供を呼びかけるチラシを配る予定だ。新型コロナの影響で、2年間中止していた警視庁亀有署の捜査員も今年は再開する。

 あれから26年――。

 賢二さんが最近、気づいたことがある。順子さんの3歳上の姉、亜希子さん(51)が生まれたばかりの頃のことだ。まだ1人っ子だったので可愛がって「あっこたん」と呼んでいた。ところが順子さんが生まれ、姉としての自覚を持ってほしいと「お姉ちゃん」に変えた。以来、小林家では亜希子さんのことをそう呼び続けている。

「でもその呼び方って順子目線なんです。事件から26年が経過した今もなお、お姉ちゃんのまま。もはや妹がいないんだから、本来はお姉ちゃんじゃないよね? でも順子目線は変わらない。順子はこの世に存在しないけど、我々家族の中では生き続けているのです」

 そんな順子さんへの思いを胸に、賢二さんは今日、柴又駅前に立つ。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。5月上旬までウクライナに滞在していた。

デイリー新潮編集部

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