藤井聡太五冠が防衛に成功 かつての“天敵”豊島九段が繰り返した気になるフレーズ
9月5、6日の両日、静岡県牧之原市にある田沼意次(江戸時代の老中)ゆかりの平田寺(へいでんじ)で、将棋の王位戦七番勝負の第5局が行われた。藤井聡太五冠(20)は挑戦者の豊島将之九段(32)を128手で破り、通算成績4勝1敗で王位戦3連覇を達成した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】マスクを片手で外しながら器用にお茶を飲む藤井聡太五冠
最年少で通算タイトル10期
藤井は「常に中盤以降の玉が薄くて自信がない将棋だったんですけど、崩れずに指すことはできたかなと思います」とこの1局を振り返り、5局通しては「どの将棋も中盤がかなり難しく、長考しても分からなかった場面が多かった」と静かに勝利を喜んだ。今回は防衛ではあるが、7月に20歳になってから最初のタイトルだ。
これで早くもタイトル獲得通算10期を達成した。過去10期以上は、羽生善治九段(永世七冠資格=51)の99期を筆頭に8人しかいなかった。しかも羽生の23歳4カ月月を抜く史上最年少(20歳1カ月月)での仲間入りだ。さらに、最初のタイトルを取ってからの期間も「歴代最速」。2020年7月に棋聖で初タイトルを獲得してからの2年1カ月という記録で、中原誠十六世名人(75)の4年0カ月を大幅に更新した。
当の藤井は、「最年少」や「最速」などの記録について、いつものように無頓着だ。会見でも「あまりタイトル獲得自体は意識していることではない。どの対局にも良い状態で臨めるように意識していけたら」と話した。
勝勢がついた120手目
初日の5日は4局目までと同様、早々に角を交換し「角換わり腰掛け銀」となった。先手の豊島は左側に玉を囲ったが、後手の藤井は囲わず柔軟な構え。双方、飛車を最下段に据え、睨み合いのまま初日を終えた。
6日朝、藤井の封じ手「8六歩」の強手が、立会人を務める静岡県焼津市出身の青野照市九段(69)により紹介され、藤井の攻めが続く。しかし、インターネットテレビのABEMA で見ていても、夕方までAIの評価値は、50%ずつの互角のまま動かない。
豊島が81手目を迎えて59分の長考に沈んだ末、自陣の「9八」に持ち駒の角を打ち込んだ。しかし、自分の駒で角の攻撃を塞いでしまっており、苦しい選択だった。藤井の120手目の「6八成銀」あたりから勝勢がはっきりする。藤井本人も「手が間に合う形になって、なんとか攻めの形を作れたのかなと思っていました」と振り返っていた。その8手後、藤井の「8五桂馬」の王手。ここからは金のベタ打ちで即詰み。これを見た豊島は投了した。
シリーズで藤井は、昨年と同様、豊島の挑戦を受けた。初戦を落とし、その後4連勝したのも昨年と同じ結果だ。七番勝負のタイトル戦で藤井は、3勝した後は必ず次の対局で勝負を決めている。
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