香川照之は初動で失敗 危機管理コンサルタントが指摘した5つのポイント

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 銀座の高級クラブにおけるいわゆる性加害に関する報道で、CMや情報番組の降板を余儀なくされた香川照之(56)。

 第一報が伝えられた直後には、かなり擁護する声も多かったのだが、複数のメディアから続報が出たことや、ネット上で異論が多く出たことなどから徐々に風向きが変わった観がある。

 当初の擁護論を追い風にすることは無理だったのか。どのようにすればダメージを極小化できたのか。

 数多くの企業の危機管理に携わっている(株)リスク・ヘッジの田中優介社長は、一連の対応を「失敗」だと見ている。危機管理コンサルタントとして見た場合、失敗のポイントは五つあるのだという。

 以下、田中氏の特別寄稿である。

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 近年、香川照之さんといえばトヨタイムズの「編集長」という印象が強いのですが、残念ながらマスコミ対応については全くの素人だったと言わざるを得ません。

 なぜなら、火に油を注ぐようなことばかりをやってしまったからです。主な失敗は次の5点です。

(1)最初に取材をした週刊新潮を始めとしたマスメディアの取材を拒否したこと

 記事が出る前に、同誌は複数回にわたり事務所に事実関係の確認を含めた取材を申し込んだもののまったく回答は無かったとのことでした。

 後に、香川さんは相手の女性のことを心配しているようなコメントを出しましたが、だとすれば第一報が出る前に、取材に対応して配慮を求めることもできたのでは、という疑問が残ってしまいます。

 取材拒否、ノーコメントという対応は取材記者の側から見れば「逃げているから後ろめたいに違いない」という印象を与えてしまいます。

 また、自ら反証の機会を放棄することであり、仮に事実誤認の報道をされても異議の申し立てが通りにくくなってしまいます(結果的に今回は全面的に認めることになったのですが)。

 香川さんも事務所も、結局、一度も取材に応じておらず、一方的にコメントを発表するだけでした。

 危機に直面した人は、二つのトウソウ本能に支配される、と私はかねがね申し上げてきました。拙著『地雷を踏むな』でも書いたのですが、二つのトウソウ本能とは「逃走」本能と「闘争」本能です。

 今回は、“逃走本能”を発揮されてしまったのでしょう。ひょっとしたら、マスメディアに対する“闘争本能”もあったかもしれません。

 この件の詳細を知る立場ではないのですが、もしも当社が関与できたのならば、最初に取材をかけられた時点で、直接取材に応じたうえで、次のように話すように言ったでしょう。

「ご指摘の件の事実関係はおおむねその通りで弁解の余地もありません。ただ、言うまでもなくこの件には被害者の方がいらっしゃるので、どうかその方が傷つかないようにご配慮をお願いします。私自身はどれだけ責められても構いませんので、その点だけはご一考ください。

 お店やその場にいた方たちにも多大なご迷惑をかけていますし、不快な思いをされたでしょうから、こういう話が出たのかもしれません。猛省しています」

 第一報にこのような要素があれば印象は大きく違ったのではないでしょうか。

 取材側はコメントをもらった以上は使わざるを得ません。

 また、時には一定の配慮をすることもあるでしょう。

 完全ノーコメントでは、記事そのもののトーン、タッチがキツくなるリスクを高めるだけなのです。

(2)ビデオによる謝罪の場面で「お騒がせして申し訳ない」「騒ぎを起こして申し訳ない」という言葉を使ったこと

 これは「発覚したこと」をわびているだけで、「発生させたこと」をわびていない印象を視聴者に与えてしまいます。その結果、反省や後悔の念が十分に伝わりません。やってはいけない“曖昧にボカした謝罪”の典型的な事例です。

 大前提は「お騒がせしたこと」ではなく、「やったこと」が問題視されているということを忘れてはいけません。

(3)謝罪を公開の場による会見ではなく自らの出演番組でのビデオで行ったこと

 この方法では番組のファンを中心とした限られた視聴者にしか謝意が伝わりませんし、一方的に自分の言いたいことのみが伝わるだけです。質問を受け付けなければ、視聴者の聞きたいことは無視しているという印象を与え消化不良感が残ってしまいます。やってはいけない“時間不足の謝罪”の典型的な事例です。

 さらに、番組への注目度を上げるために利用したのでは、などといううがった見方を招きかねません。

(4)1回目の謝罪をした時に情報番組「THE TIME,」の降板を表明しなかったこと

 謝罪のコメント以外には、特段、行動につながるようなことが無い――この種の謝罪を私は“贖罪の伴わない謝罪”と呼んでいます。

 これは往々にして続報や後追い記事を呼び寄せてしまいます。企業の経営者もよく犯す失敗です。

 というのも、言葉だけの謝罪の場合、一定数の視聴者が「香川さんは何故辞めないのか?」と疑問を抱き、そうした声を上げます。それがSNS上で可視化される時代です。

 マスメディアはそうした声を拾いながら記事を出します。結果としてマスメディアに続報を出す余地を与えてしまうのです。

 仮に1回目の謝罪をした時に降板を表明していたら“水に落ちた犬を打つ”ことになってしまうので、マスメディアの報道意欲はそがれてしまっていたでしょう。

(5)「THE TIME,」の降板を発表した理由について、「今の私の生の声では説得力がありませんので」と抽象的な言葉を使ったこと

 決して不誠実なコメントではないのですが、もう少し具体的な表現のほうが望ましいでしょう。

 これは企業の経営者でも多く見られる失敗の一つです。「道義的責任を取って」や「新しい体制で出直すため」などもそうですね。

 進退を発表する時には被害者の溜飲が下がる言葉、すなわち被害者が言いたい言葉を先取りして代弁するくらいの気持ちが必要です。今回ならば、次のように語ったほうが良かったと思います。

「情報番組ではコンプライアンス違反の案件やモラルに反する案件を厳しく報道しなければなりません。今回のような問題を起こした私には、語る資格もありませんし、語る言葉も見つかりません。それどころか、私が顔を見せるだけで多くの皆さんに不快感を与えてしまいますので、当然ですが降板させていただきます」

 被害者や視聴者の溜飲を下げるメッセージを発することを私は“解毒”と呼んでいます。が、「説得力」うんぬんというコメントではそれが不十分だったように感じます。

 当初、かばう声がかなりあったことは、香川さんの人気の高さを物語っています。それだけに、一連の対応は残念に感じました。本人が動転しているとしても、スタッフが冷静に危機管理をすべきだったのではないか、と思います。

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田中優介(たなか・ゆうすけ)
1987(昭和62)年東京都生まれ。企業の危機管理コンサルタント。明治大学法学部卒業後、セイコーウオッチ株式会社入社。お客様相談室、広報部などに勤務後、2014年株式会社リスク・ヘッジ入社。2019年12月現在、同社代表取締役社長。岐阜女子大学特任准教授。

田中優介(たなか・ゆうすけ)

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