中国史上もっとも悪名高い「裏切り者」が、日本で高く評価される意外な理由
「11人の君主」を乗り換えた男
忠臣は二君に仕えず――中国の「史記」に出てくる言葉で、「忠誠心のある臣下は、いったん主君を定めたのちは、他の人に仕えることはない」という意味である。
しかし、その中国には「二君」どころか「十一君」に仕えた変節漢がいる。その名は馮道(ふうどう)。唐の末期、西暦882年に生まれ、「五代十国」と呼ばれる乱世の時代に、11人の君主のあいだを渡り歩いた、悪名高い文官・宰相である。
中国史の第一人者・岡本隆司さんの新刊『悪党たちの中華帝国』では、この馮道の生涯をくわしくたどり直し、なぜ彼がこれほど多くの君主に重用されたのか、その巧みな処世術を解き明かすとともに、後世の歴史家たちによる毀誉褒貶を描いている。...