役者が損しちゃった「夏ドラマ」5選 自衛隊PRに終わった「テッパチ!」、「ちむどんどん」は黒島結菜がひどい目に

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 脚本なのか、演出なのか、はたまた設定そのものなのか。今夏、役者が損しちゃっている感が強い作品をゴボッとまとめておこう。

 防衛省陸上自衛隊の全面協力と謳って大風呂敷広げたものの、自衛官募集臭しかしない「テッパチ!」(フジ)。上半身裸でキャッキャする訓練生時代を描いた前半、配属されて先輩の洗礼を受ける後半の2部構成。

 主演の町田啓太はホモソーシャルよりも、女性上位コミュニティーのほうが断然魅力を発揮できる。「美女と男子」「定年女子」(NHK)、「中学聖日記」(TBS)や「SUPER RICH」(フジ)では年上の女性に転がされる感じが実によかったし、「女子高生の無駄づかい」(テレ朝)はJKまみれでも我が道を行くオタク教師を好演したのにね。

 教官(白石麻衣)と出合い頭でぶつかりまくる演出は自衛官のくせに前方不注意が過ぎるし、自衛隊の存在意義が拡大解釈され続ける問題にも触れず。災害派遣だけで茶濁す魂胆か。少なくとも現役の陸自約14万人が納得のいくリアリティーのかけらがあれば、もっと伸びたはずなのに。陸自夢物語のPRに成り下がっている。

 同じくフジの「競争の番人」は公正取引委員会を舞台に、すご腕審査官の坂口健太郎と元刑事の杏がバディを組んでいる。杏は正義感にあふれ、熱血で空回りする役どころ。元気キャラはもう卒業したほうがいいし、知的で賢くて合理的な女のほうが似合う。女がアホに見えるドラマは女性票を失う。クールな杏が観たいの。ドラマ自体は面白いけどね。

「新・信長公記」(日テレ系)はもうよくわからん。戦国武将のDNAで作られたクローンなんてめっちゃ面白そうじゃんと思ったのだが、終始、学園内小競り合い。主演のりょーちん……じゃなくて永瀬廉が闘うというか、舞う? 焼く? あれでいいの? もう正解がわからん。無駄にコスプレして、すっかり三の線に落ちた三浦翔平に関しては、あれで正解だと思うけれど。

 同じく日テレの「家庭教師のトラコ」。主演は橋本愛。問題を抱えた家の子供(と母親)に、勉強だけでなく、生きる術と秘訣(ひけつ)を伝授。橋本は各家庭に合わせて、謎のキャラ変。ロッテンマイヤーさん風、熱血教師風、そしてキレイなお姉さん風。なぜキャラを分けたのかな。髪型は変わらないので微妙に中途半端だし、熱血教師風だけ異様に浮いている気がする。無愛想で怠惰な「素のトラコ」が最高なだけに、キャラ変が蛇足に見えてね。

 さて、メインディッシュ。問題の朝ドラ「ちむどんどん」である。「アシガール」「ハルカの光」「スカーレット」「悲熊」「夏目漱石の妻」と、NHKドラマとは相性がよかったはずの黒島結菜がひどい目に遭っている。

 家族が起こした窃盗や器物損壊、暴行、詐欺行為をとがめず、他人に迷惑をかけても甘やかして許すという、問題の多い家庭に育ったヒロイン。奇遇にも程がある強運にも、なんだか感謝の念が薄くて、しかも強情。視聴者からこんなにも共感されないヒロインは、気の毒で仕方ない。次の出演作品で早めの上書きを!

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年9月8日号掲載

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