なぜ米空軍の訓練で「100年前の中国の地図」が使われる? 習近平の妄執の背景にある「国恥地図」

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「要」となる台湾

 教官が地図に描いた中国沿岸部の囲み線は、中国軍の五大戦区(軍の管轄区)のうち、台湾を管轄する東部戦区や南部戦区の作戦区域だろう。中国と台湾の距離は、最も狭い台湾海峡北部でわずか130キロメートルほどしかなく、東京と軽井沢くらいのイメージだ。中国人民解放軍は短時間で攻撃が可能である。この講義では、「国恥」の解説とともに「台湾侵攻」の動きを加速させている中国軍の現状を分析したにちがいない。

 5月23日、岸田文雄首相と米国のバイデン大統領による初の対面での首脳会談が行われ、共同声明が発表された。声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調するとともに、「両岸問題の平和的解決を促した」と明記されている。

 翌日には、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」の首脳会合が行われた。ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射と開発を非難し、インフラ、サイバーセキュリティー、宇宙など幅広い分野での協力体制を確認するとともに、中国を念頭に「包括的で強靭な、自由で開かれたインド太平洋」への揺るがない関与を確認して、「(中国含め)現状を変更し、地域の緊張を高めようとするあらゆる威圧的、挑発的又は一方的な行動に強く反対する」と、共同声明が発表された。

 今後の中国が、どこまで本気で南シナ海の領有権を主張し、台湾や尖閣諸島を取りに来るかは、予断を許さない。しかし「要」となるのは台湾であり、「台湾有事」こそが、今後の趨勢を大きく左右する「天下分け目の戦い」になることは間違いない。9月29日には「日中国交正常化50周年」を迎えて盛大な式典が催される予定だ。友好は大切だが、中国の本質を理解する上で、日本も「国恥地図」の分析は欠かせないだろう。

譚 ろ美(たんろみ)
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。元慶應義塾大学訪問教授。革命運動に参加し日本へ亡命後、早稲田大学に留学した中国人の父と日本人の母の間に生まれる。『中国共産党を作った13人』『阿片の中国史』『戦争前夜―魯迅、蒋介石の愛した日本』など著書多数。

週刊新潮 2022年9月1日号掲載

特別読物「米軍が『台湾侵攻』分析に活用 『中国』100年前の『国恥地図』に秘めた野望」より

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