なぜ米空軍の訓練で「100年前の中国の地図」が使われる? 習近平の妄執の背景にある「国恥地図」
国恥地図は日本製だった?
この「中華国耻地図」にはもうひとつ、鉄道路線図が目立つという特徴がある。
実は、孫文は1900年に日本人の革命支援者たちに依頼して、日本で「支那現勢地図」を製作している。鉄道ネットワークを記すための「主題図」で、南限はやはり海南島だ。革命後の国家建設の大構想を練るために作った。これは推測だが、孫文の死後、「孫文の後継者」を自任する蒋介石が、「支那現勢地図」を使って国恥地図を作らせた可能性が十分に考えられる。
もしそうなら、悪い冗談のような話だ。日本の侵略によって「国恥」という言葉が生まれ、「国恥記念日」が制定され、「国の恥」を忘れないよう国民を教育するために作られたのが国恥地図だ。それが、もとを正せば日本製の中国地図だったとは、まったく雑な仕事というほかない。日本人の感覚ならそれこそ恥ずべき所業だろう。だが、「使えるものは何でも使え」という拘りのなさ、パクリ精神こそ、中国的合理主義かもしれない。
「南シナ海は中国のもの」という考え
1928年に開始された国恥教育は1940年代に入って日中戦争が激化したことで、それどころではなくなった。国恥地図も製作されなくなった。1945年に第2次世界大戦が終結すると、国民党と共産党の内戦が再燃し、負けた国民党は台湾へ逃げ延び、中国大陸には1949年、共産党政権である中華人民共和国が誕生した。
すでにお蔵入りしていた国恥地図を再び持ち出したのは、現在の中国政府だ。共産党政権も国民党時代と同様、1980年代まで国恥地図を小中学校の歴史や国語の教材として取り入れた。その時代に学校教育を受けた中国人は、今でも「南シナ海は中国のもの」という考えを捨て去れないと聞いたことがある。
また、中国政府は国際外交の面でも、国恥意識や失地回復を「外交カード」として使っている。南シナ海の領有権を主張して断固として譲らず、「核心的利益」と呼んで、東シナ海の台湾や尖閣諸島の領有権に固執する背景には、歴史的に生み出された「失地意識」がある。そして習近平政権は「100年の恥辱」を雪ぐことを使命とし、「大中華帝国」の再構築を国家の最高目標に掲げている。
中国が南シナ海の領有権を主張する様は、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を断行した際にロシア帝国の領土を回復することを「侵攻の根拠」としたのと、驚くほど似通っている。民間人の犠牲をいとわず、政治的な目的を果たそうとする点でも共通している。
であるからこそ、米軍もこの地図を使用したのだろう。
[6/7ページ]