ミドリムシの会社からSDGs実現のための会社へ――出雲 充(ユーグレナ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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ユヌス先生に魅了される

佐藤 ユーグレナ社は、栄養価の高い健康食品から始まりました。

出雲 ユーグレナは「藻」の仲間で、微細藻類の一種です。動物と植物両方の性質を備え、59の栄養素が含まれ、かつ高タンパクです。ユーグレナは、100を超える種類が発見されていて、その中に油脂を多く作る種類があり、それがバイオ燃料の原料の一つになります。

佐藤 なぜユーグレナに注目されたのですか。

出雲 大学1年の夏休みに1カ月間、バングラデシュに行きました。最貧国だと聞いていましたから、スーツケースにカロリーメイトを山ほど詰めて持っていったんですよ。でも誰も受け取ってくれない。なぜなら、彼らはお米をお腹いっぱい食べているからです。いま日本人は年間50キロほどお米を食べますが、バングラデシュの人たちは当時、カレーとともに170キロも食べていました。だからお腹は膨れている。でもカレーにはニンジンやタマネギ、肉や魚は入っていません。また牛乳、卵もない。だから彼らはビタミンやタンパク質を十分に摂取できていないんです。

佐藤 お腹いっぱいだけども、栄養失調になっている。

出雲 はい。この問題をどうしても解決したいと思いました。だから日本に帰国後は大学で栄養学の勉強をして栄養価の高いものを見つけ、現地に持って行きたかった。それで文科3類から農学部に進み、そこでユーグレナに出会ったのです。

佐藤 出雲さんのご著作や資料を拝読すると、社会問題を解決しようという強固な意志と正義感を感じます。そこに強い関心を抱いたのですが、そもそもどうしてバングラデシュに行かれたのですか。

出雲 もともとUNDP(国連開発計画)やWFP(国連世界食糧計画)など、国連の機関に就職したいと思っていたんです。そのためには「学生時代はバングラデシュやアフリカで頑張っていました」と言わないといけない(笑)。だから現地へ貧困問題を直に見に行き、グラミン銀行でインターンシップをしたんです。

佐藤 有名なマイクロファイナンスの銀行ですね。

出雲 ご存知の通り、グラミン銀行は1973年にムハマド・ユヌス先生が、ジョブラ村で42人の女性にお金を融資するところから始まりました。そのスキーム(枠組み)が最高なんですよ。

佐藤 貧困層に向け少額を融資する。

出雲 世界銀行の定義では、絶対貧困層は1日1.90ドル以下で暮らす人たちで、地球上に7億人ほどいます。バングラデシュは人口1億6千万人、うち農業従事者が国内総労働人口の47%を占めています。私がインターンシップでバングラデシュを訪れた当時、彼らの収入は1日1ドルで、年収は3~4万円くらいでした。その絶対貧困層の彼らにグラミン銀行は3万円貸してくれるのです。

佐藤 ほぼ年収相当額ですね。

出雲 普通なら貸す金額に相当する預金担保や不動産があるかを調査します。でも3万円貸す人への調査をしていたら、それ以上のコストがかかります。そこでユヌス先生は、何も調査せず、とにかく信じるという方針を貫くんです。つまり性善説です。現地のほとんどの人は教育を満足に受けられていなかったため自分の名前も書けません。だからサインもできない。それでも3万円を貸す。

佐藤 金融資本主義が発達していない地域におけるお金は、それ以上の価値を持つことがありますから、その3万円は非常に大きい。

出雲 私が行った村では、その3万円でヤギを買いなさい、と銀行員が指導していました。ヤギがいれば、農作業の間にミルクを搾って売ることができます。それだけで1日1ドルだった収入が5ドルになる。すると年収も5倍になって、最初に借りた3万円を銀行に返せます。

佐藤 それが成功して、ユヌス氏はノーベル平和賞を受賞しましたね。また銀行も大きくなった。

出雲 いまでは世界中900万人以上に1400億円の融資をしています。幸運なことに、私が最初にバングラデシュを訪れた時に、ユヌス先生と会うことができたんです。それがもう嬉しくて嬉しくて。先生からは「世の中にはグリーディー(強欲)な金儲け主義もあるし、グラミン銀行のようなソーシャルビジネスもある。人はどちらの面も持っている。好きな方を選んでくれ」と言われました。ユヌス先生にすっかり魅了された私は、そこで性善説でソーシャルビジネスをやろうと決めたんです。

佐藤 大学を卒業されて東京三菱銀行(当時)に就職されたのは、金融の仕組みを知るためですか。

出雲 そうです。でも1年と決めていました。神保町支店に配属され、ATMにお札を補充したり、預金を集めたり、住宅ローンを扱ったり。半年して法人営業をさせていただきましたが、融資先にどのくらい担保能力があるかを見る力はまったく付きませんでした。ただ東京三菱銀行とグラミン銀行の両方を見せていただいたことはいい経験になりました。

佐藤 銀行にはコンサルタント的な役割もありますね。先ほどのヤギを購入して飼ったらいいという具体的な提案のように。

出雲 その絶対的貧困の人たちに能力がないわけではない。ヤギを買うとか、肥料を買うとか、適切な提案があり最低限の融資が行われれば、収入は簡単に5倍になるんです。だから担保能力の有無じゃない。

佐藤 マイクロファイナンスは、人を信じることで世の中が良くなることを一番よく表している仕組みだと思います。

出雲 そうです。だから私はどんなに甘いと言われようと、性善説なんです。人の善なる部分、その素敵な部分を確信して、仕事をしていきたいのです。

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