50歳で「一生に一度の恋」に落ちた不倫夫 密会部屋での逢瀬の果てに、思わぬ展開が待っていた
とつぜん恋に落ちて
中学生にもなると、息子たちにはそれぞれの世界ができていく。上の子はサッカーが好きで、下の子は鉄道が大好き。スポーツ好きの冬美さんは長男の試合をよく見に行っていた。次男に教えられて自らも「鉄男」になった龍太さんは、鉄道の写真を撮るために次男とふたり旅をしたこともある。
「僕は星好きですから、次男に星のことも伝授したりして。次男はそれがきっかけになったのか、大学で天文学を学んでいるようです」
仲のいい家族だと自分でも思っていた。ところが今から2年ほど前、龍太さんはまるで身体と同じ大きさの落とし穴にはまるように、恋にスポンと落ちてしまった。
「恋というものをしたことがなかったんでしょうね、僕は。学生時代、淡い恋をしたことはあるけど、実は妻が初めての女性なんです。結婚後は、女性とは友だち止まり。恋をする実感が乏しかったし、数少ない女友だちとめんどうなことになるのも嫌だったし。結婚しているのに他に女性を作ったら、生活が煩雑になるでしょう。僕はシンプルに生きていたかったんです」
それなのに 恋に落ちた。相手は医師である。仕事帰りの深夜、彼女が運転する車に、彼が接触して転倒したのだ。
「そのころ、たまたま仕事が忙しくて寝不足が続いていたんです。その日は仕事が一段落したので、同僚と軽く一杯やった。同僚と別れるまでは大丈夫だったんですが、ひとりになったとたん、ふらふらして。自分でも危ないなと思っているのにコントロールが利かない。ちょうど金曜日で人も多かった。歩道と車道の区別がない道で、僕がふらっとしたのと後ろから車が来たのが同時で、コンとぶつかっただけなのに転倒しちゃったんです」
ケガがないのはわかっていたが、車から降りてきた女性はすぐに車に乗せて病院へと連れて行ってくれた。その病院に勤務する医師だったのだ。
「頭は打っていないと言ったのに検査してくれて。頭だけでなくあちこち検査してくれました。『心配だから、今晩だけ入院してください』と言われました。ちょうど疲れていたし、そのままぐっすり眠って。朝起きたら、彼女が枕元にいたんです。一瞬、何が起こったのかわかりませんでした。ご家族に連絡もしてなかったけど大丈夫ですかと言われて、ようやく事の次第を思い出した」
あわてて妻に連絡をし、説明をして大丈夫だからこのまま退院すると告げた。その日は仕事を休むことにし、その医師から警察に届けたことなどを聞かされた。
「さらにいくつか検査をし、あれこれ説明してくれたあと、彼女は『山本佳耶子といいます』と名乗りました。僕も名乗って名刺を渡した。とにかく大丈夫だから、今日は帰りますと言うと、彼女が『お腹すいてません?』と。そういえばもう昼近くなっている。『私は今日、外来が入っていないので、ぜひランチでも』って。とっても感じのいい女性だったんですよ。もう少し話していたい、この人のそばにいたいと思った」
佳耶子さんの言葉に甘えてランチをともにした。加害者と被害者がランチをとっているって変ですねと佳耶子さんは言い、彼は「そうですね」と笑った。
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