悪童なのに応援したくなるテニスプレーヤー・キリオス コート上と正反対な素顔とは(小林信也)

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大坂なおみと同型

 キリオスが愛用するのは大坂なおみと同じヨネックス「EZONE 98」のカスタマイズ版。それほど難しい注文はない。ただひとつ、他のプレーヤーと大きく違うところがある。

「試合中あまりラケットを交換しません。1本のラケットで戦うこともあります」

 通常、選手たちは9ゲームごとのボール交換に合わせてラケットを替える。ガットが緩んでくるからだ。キリオスは気にしない。

「グリップも含めて感覚が途中で変わるのが嫌なのでしょう。試合全体をひとつの流れで捉えるイメージを大事にしているようです」

 そういう独自の感性を知ると、キリオスを応援したくなる。それにしても、悪童が少しずつ変化・成長している要因は何だろう?

「ガールフレンドの存在ではないでしょうか。ずいぶん精神的に落ち着きました」

 ネットを検索すると、面白い映像に出合った。ウィンブルドン前の練習風景。練習コートで優勝候補のひとりナダル(スペイン)が2人のレシーバーを相手に鬼気迫るストロークを打ち込んでいる。ひとつ置いた右のコートで、キリオスはガールフレンドにテニスを教えている。初心者なのだろう。まるでピンポンのような打ち合い。対照的なナダルとキリオスの姿。勝ち進んだふたりは、準決勝で対戦が決まった。ところが、ナダルは準々決勝で腹部のケガを悪化させ、準決勝の舞台に立てなかった。不戦勝で決勝進出の権利を手にしたのは、ガールフレンドと楽しい時間を過ごしたキリオスの方だった。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2022年9月1日号掲載

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