悪童なのに応援したくなるテニスプレーヤー・キリオス コート上と正反対な素顔とは(小林信也)
「悪童」ニック・キリオス(豪)がウィンブルドンの決勝に進出した。2013年から4大大会に挑戦し始め、30試合目での快挙だった。
「自分が勝てるとすればウィンブルドンだ」
本人が断言する、相性のいい芝生のコートで才能を輝かせた。
身長193センチ、ひげをたくわえたワイルドなルックス。緊迫した打ち合いの最中に突然股下からボールを打ち返す、アンダーサーブを繰り出すなど、相手をなめたようなプレーを演じる。
今年のウィンブルドンでも、初戦からキリオスは問題行動の主だった。1回戦でジャブ(英)を破った後、試合中ずっと汚い野次を飛ばしていた観客に唾を吐いた。これで1万ドルの罰金。チチパス(ギリシャ)との3回戦では審判に汚い言葉を浴びせ、長々と抗議を続けて罰金4千ドルの処分を受けた。だが、キリオスは決勝に進み、ただの悪童でないことを自ら証明した。
決勝の相手は“因縁の”王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)。コート外でキリオスが彼への挑発発言を繰り返し、ふたりの関係は“険悪”と見られていた。
「オレはノバクに2戦2勝だ。一度も負けていない」
それがキリオスの言い分だ。過去2回ツアー大会で対戦し、いずれもキリオスが勝っている。ジョコビッチもあるインタビューで“やりにくいビッグ・サーバーは誰か”と聞かれ、キリオスの名を挙げている。
時速240キロの快速サーブは、捉えにくいタイミングで相手の懐に食い込む。普通は速度を落として安全策を取るセカンドサービスも、200キロ近い速さ。
ジョコビッチとの関係が変わったのは今年1月。キリオスの母国オーストラリアが、全豪オープン出場のため入国したジョコビッチを騒動の末、強制送還した。キリオスは一貫してジョコビッチを擁護し、政府を非難した。悪童なのか、心優しき正義漢なのか?
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