資産家殺害「高井容疑者」自殺で思い出す「尼崎連続殺人事件」 角田美代子との共通点も
「尼崎連続殺人事件」も容疑者が自殺
凛容疑者の自殺で思い出すのが、2012年10月に発覚した「尼崎連続殺人事件」だ。兵庫県尼崎市のマンションを拠点に、被害者らと長年にわたって「疑似家族」を築き、共同生活をしながら、虐待したり監禁致死に至らせたり、財産を奪うなどして、計6人を死なせたとされる犯罪史上に残る大事件だ。主犯は角田美代子という女だ。
1980年代から続いていた恐るべき連続殺人が判明したきっかけは2011年11月、監禁状態から逃げ出した40代の女性が警察に駆け込んだことだった。その女性の母親は不審死していた。その後、保険金を掛けられて沖縄の岸壁から落とされたとみられる男性や、ドラム缶詰めで岡山県の日生(ひなせ)港に遺棄された男性などの「不審死事案」が次々と判明。尼崎の民家の下で遺体になっていた若い女性もいた。
角田の手口は、些細なことに因縁をつけては他人の家族に乗り込み、家族の中にいさかいを起こすようにもってゆき、「家族崩壊」に導く。ヤクザまがいの屈強な男を用心棒にし、気に入らない女性などは真冬に下着一枚でベランダに監禁し、食事もろくに与えず排泄もさせないなど滅茶苦茶なものだった。そして、角田の甘言に騙されマインドコントロールされていった人たちは、結果的に自らも殺人などの加害者になっていったのだ。
ところが、角田は12年12月に兵庫県警察本部の留置場で自殺してしまった。64歳だった。
「ベビーカーが挟まれた」と因縁
今回の凜容疑者の独房とは違い、角田が自殺を図ったのは複数人が収容された部屋で、長袖のTシャツで首を吊ったとみられる。これで事件の主犯格が消えてしまい、真相は闇へと葬られた。結局、角田は存命中に1件だけ起訴されたが、死亡したため控訴棄却になった。自殺していなければまず死刑だったはずだ。
何しろ6人の殺害の主犯格だ。我が国の女性の犯罪史上、トップともいえる殺人犯だ。他にも立件はできていないが、角田との共同生活から逃げ出し、未だに行方不明になっている者もいる。
主舞台となった尼崎市はもちろん、香川県から滋賀県、岡山県を走り回っていた筆者は当時、「犯罪史上に残る大事件、本が書けないか」と打診され、しっかり裁判を傍聴して書こうとのんびり構えていたが、想定外の主役の自殺で頓挫した。
筆者は主に、ある男性の公判を傍聴していた。角田に「電車のドアにベビーカーが挟まれた」と因縁をつけられた阪神電鉄の男性社員だ。ターゲットにされたこの男性に対し角田は、ベビーカーの弁償だけではすまさず、執拗に会うことを求めた。次第に男性は、妻と離婚し、退職して喫茶店を立ち上げることを勧められるようになる。男性は、角田の巧みな言葉を「自分のためを思ってくれる人」と勘違いし、マインドコントロールされていった結果、女性の監禁致死にも加担することになり、人生を棒に振ったのだ。「尼崎連続殺人」は角田が主犯とはいえ、従的な共犯も多く、合計11人が起訴されていたので、主役の死後も裁判である程度の真相追及は可能だった。
一方、今回の高槻の事件は単独犯と思われる。そのため、凜容疑者が死亡したことでほとんどの事実がお蔵入りしてしまうはずだ。検察は、捜査は続けるものの不起訴とする見通しだ。
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