資産家殺害「高井容疑者」自殺で思い出す「尼崎連続殺人事件」 角田美代子との共通点も

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 2021年7月、大阪府高槻市に住む資産家の高井直子さん(当時54)が浴槽で溺死した姿で発見された事件。今年7月に殺人容疑で逮捕された養子の高井凜容疑者(28)が、9月1日の早朝、勾留されていた大阪府警福島署の留置場で自殺を図り、その後、死亡した。そこで思い出されるのが、2012年、同じく警察の留置場で自殺した「尼崎連続殺人事件」の角田(すみだ)美代子(当時64)だ。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

Tシャツを紐状に

 9月1日午前7時2分頃、福島署3階にある留置場の一室で凛容疑者がぐったりしているのを、巡回中の署員が発見して119番通報した。紐のようなものを束ねて首を吊っており、病院に搬送された時点で心肺停止、意識不明の状態。署員が18分前に室内を確認した際には、凛容疑者は布団で寝ていたという。

 留置場の独房に勾留されていた凛容疑者は、取り調べで「逃亡」をほのめかしていたため、同署は「特異被留置者」に指定。8月19日から夜間の監視を強め、1時間に5回も見回っていた。8月30日には、自殺をほのめかすことを書いた便せんが見つかったが、対面監視などの措置は取らなかった。監視の合間の極めて短い時間に、Tシャツを紐状に裂いて換気用の窓の金網にかけ、首を吊ったとみられる。

 留置場は刑務所とは違い容疑者の服装は私服だが、自殺に使えるような金属類の持ち込みや紐状のものが付いた服などは没収される。同署の大田健吾副署長はNHKの取材に対して「監視を強化していたが、当時の状況などを確認して、どこに問題があったかも含めて原因を究明したい」とコメントした。

保険金と遺産目当てで養子縁組

 改めて事件を振り返ろう。

 名門の関西学院大学アメリカンフットボール部出身の高井(旧姓・松田)凛容疑者は、これまでの報道の通りなら、久しぶりに見る「超極悪人」の印象だ。外資系の生命保険会社で保険外交員として働いていた時、顧客になった高井直子さんと知り合った凛容疑者は、昨年2月に直子さんと養子縁組を結び高井姓となる。そして、直子さんの印鑑などを無断で使い虚偽の書類を作ったと思われる。

 この方法で直子さんに掛けられた約1億5000万円の生命保険の受取人になったほか、資産家だった彼女の預貯金など約1億円を相続している。東京のタワーマンションに住みながらランボルギーニを乗り回し、複数の女性と派手に遊び歩いていたとされる。女装して高槻に来る様子が防犯カメラなどに残されていたという。

「凜容疑者が保険金や遺産を目当てに直子さんを浴槽で沈めて殺害した」とみた大阪府警は、まず今年7月20日に高井さんとの養子縁組届を偽造した容疑で凜容疑者を逮捕した。さらに8月10日、クレジットカードの支払いを不正に免れた詐欺容疑で再逮捕し、25日に直子さんへの殺人容疑などでの再逮捕に踏み切っていた。凜容疑者は取り調べに黙秘を続けていたという。しかし、凜容疑者が自殺したことで、真相は闇の中に消えた。

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