上級国民がダマされる「M資金詐欺」は、ほかの詐欺話と何が違うのか
既にカモがいる世界
言うまでもなく、M資金の使い道に関する物語は、完全なファンタジーだ。
だが、「世界観がリアルで現在進行形の物語」だったり、「実在する企業が登場する物語」だということから──少なくともファンの間では──リアリティを感じさせることに成功している。
ところで、詐欺話を相手(被害者)に信じ込ませるためには、どうすればいいのだろうか?
ここで重要なのは“世界観”だ。
例えば「オイル詐欺」の手口なら、あるはずもない「オイルに関する利権」を信じてもらう必要がある。
オレオレ詐欺なら、電話で訴える被害話を信じてもらう必要がある。霊感商法でも、二束三文の木片や印鑑を「ご利益のあるお守り」と信じてもらう必要がある。
騙す相手に信じてもらうため、詐欺師たちは世界観の設定に腐心する。
オイル詐欺なら、国際石油カルテルといったスケールの大きな話をでっち上げる。オレオレ詐欺なら、「交通事故で示談金」といったエピソードのリアルさに気を配る。
どんな詐欺師でも、世界観の設定には頭を悩ませる。ところがM資金詐欺の場合、すでにファンが存在している。
彼らは戦後から作り上げられたM資金伝説の世界観を信じてしまっているのだ。
30億円の被害額
つまり詐欺師にとっては、「仕上がった連中」なのがM資金伝説のファンというわけだ。故に、これを利用しない手はないと考える詐欺師が出ても当然だろう。
こうしてM資金伝説は、詐欺師たちに目をつけられた。
詐欺師たちは、M資金伝説のファンたちが話す「使い道に関する物語のフォーマット」を巧みに悪用した。
自分たちこそM資金導入に関する「担当官」「管理官」「選定委員」……であると、カモ=被害者に信じ込ませた。これがM資金詐欺の典型的なパターンである。
確立された世界観が存在するため、詐欺師たちは世界観を巧みに利用するだけで、容易にカモを獲得した。そして詐欺師たちはカモからカネを騙し取ったのだった。
詐欺師たちは、「実はM資金導入のために『登録費』の支払いが必要になります」とか、「資金の受け皿となる別会社を設立しなければなりませんから、その設立費用を支払ってください」とか、「政治家に裏金を渡さなければ成立しませんので支払ってください」と言い、カモから騙し取れるだけのカネを引き出す。
具体的な被害額は、少額なら10万円とか20万円といったところだが、高額のケースでは30億円というものもある。
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