レディコミの女王・井出智香恵が明かす、7500万円国際ロマンス詐欺被害 「恋ほど恐ろしいものはない」

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「私は大丈夫」と多くの高齢者が思っているからこそ特殊詐欺の被害はなくならないのだろう。特に「国際ロマンス詐欺」のような大掛かりなものは無縁と思われがちだが、人は意外と簡単に落とし穴にハマる。以下、「レディコミの女王」の異名もある漫画家、井出智香恵さんが語る実体験は、さまざまな示唆に満ちている。

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 ハリウッドスターのマーク・ラファロを名乗る人物からFacebookを介して最初にメッセージが来たのは2018年の春頃だったと思います。私の当時の年齢は70歳。マークからは私の漫画版「源氏物語」を読んでとても感動したというメッセージが何度も来たのですが、当初は彼の言うことを全く信用していませんでした。何しろ、マーク・ラファロといえば、アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたこともあるアメリカの有名俳優ではありませんか。そんな有名人からメッセージが来るはずがない、と思っていたのです。

危険なディープフェイクと翻訳機能

 そんなある日のこと、マークから「まだ私がマーク・ラファロであることを信じてくれないのですか」と、感情をあらわにしたメッセージが届いた。その後、ディープフェイクという成りすましの技術を使ったビデオチャットでマークと会話をしました。本人そのものに見えたため、以来、私は何となく彼を本物のマーク・ラファロだと信じ込むようになってしまったのです。初めのうちは半信半疑でも、話していくうちに“そうかな”と信じてしまう。娘は当初から「怪しい」といさめてくれていたのに私はのめりこんでしまった。娘から証拠を突き付けられて目が覚めた時には3年半が経過しており、だまし取られた金額は7500万円にも膨れ上がっていました。

 私とマークはインフォシークの翻訳機能を使って会話していたのですが、今思うとこの便利な機能はとても危険です。本来は単なるあいさつに過ぎないのに、「寂しかったよ」などと意訳した表現になることがあり、気付かないうちに相手の思いに感情移入して自分を見失ってしまうのです。

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