峯岸みなみを苦しめた“呪縛”、再評価のきっかけとなった番組とは?

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指原の台頭と再評価のきっかけ

 だが、バラエティの現場は生き馬の目を抜く過酷な競争社会である。特に若い女性タレントの枠は入れ替わりが激しい。その中で、峯岸はあまり特徴のない平均的な能力のどこにでもいる女性タレントに過ぎなかった。

 さらに、追い打ちをかけるように、彼女と同じ「AKB48のバラエティ担当」だった指原莉乃が覚醒して、バラエティタレントとしてすさまじい勢いで仕事を増やしていった。指原は週刊誌で自身のスキャンダルが報じられても、それをバラエティ番組で明るくネタにする器用さを持っていた。

 一方の峯岸はスキャンダルが報じられた際、自ら頭髪を丸刈りにして謝罪する動画を公開して世間に衝撃を与え、猛バッシングを浴びた。このあたりから彼女の意識と世間とのズレが決定的なものになっていった。

 そんな峯岸がバラエティタレントとして再評価されるきっかけになったのが、2020年10月24日放送の「まっちゃんねる」(フジテレビ)に出演したことだった。女性タレント同士で本気の笑わせ合いをする「女子メンタル」という企画に挑み、緑のタイツを着てガチャピンに扮するなど体を張ったパフォーマンスを見せて、優勝を勝ち取った。ここでの活躍が認められて、再びバラエティ番組の仕事が増え始めた。

「女子メンタル」のように激しく体を張った笑いを求められるようなことは、バラエティ番組でもそれほどあるものではない。ただ、そこで奮闘する姿を見せたことで、タレントとして本気で戦う意志があるというのを示すことができた。そこがテレビ制作者にも認められたのだろう。

 もともと峯岸という人間のバラエティタレントとしての魅力は、器用に立ち回れずに失敗をしたり、みっともない姿をさらけ出したりする桁外れの「不器用さ」にある。スキャンダルへの対応として「丸坊主になる」という過剰かつ最悪の選択をしたり、考えなしの失言で炎上騒ぎを起こしたりする。それが本来の彼女の姿なのだ。

 バラエティ番組では、それぞれが自分の武器で戦うしかない。器用にできる人はそうすればいいが、不器用な人は不器用さを武器にするしかない。峯岸は「女子メンタル」出演を機に開き直れたことで、本来の人間的な魅力を出す感覚をつかんだのではないか。

 AKB48を卒業して、長年背負っていた「アイドルグループのバラエティ担当」という十字架から解き放たれた今こそが、バラエティタレントとしての彼女の全盛期なのかもしれない。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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