見事な復讐に溜飲が下がりまくり 松本若菜主演「復讐の未亡人」はシリーズ化してほしい 

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 復讐の正当性について考えてしまう今夏。人権や生活、生命を脅かす復讐行為は許されないと頭ではわかっているが、「復讐されても致し方なし。自業自得だ、ざまみろ」と思うこともある。うそつきやひとでなしが復讐されると、正直胸がすく。そんな溜飲さがりまくりのドラマが「復讐の未亡人」だ。主演は松本若菜。

 愛する夫(平岡祐太)が勤務していた会社の屋上から飛び降りて自死。若菜は夫を死に追いやった人間に復讐すべく、名前を変え、会社に派遣社員として潜り込む。優雅で美しく有能な若菜は社内で信頼を得ていくが、やっかみや嫌がらせも。復讐に協力してくれるのは、亡き夫の弟で幼なじみの淵上泰史。探偵を生業とする淵上は、社内に清掃員や警備員として潜入し、復讐の手はずを整えてくれる。

 若菜の、穏やかな微笑みからスッと無表情になるシーンが印象的だ。一度でも心が死んだ人はこういう顔をする。夫の死に関与したであろう人間を、色仕掛けや仕事のサポートで信用させては、容赦なくリベンジ。

 せっかくなので、若菜&淵上の連係プレーでひどい目に遭う人々を紹介しておく。

 パワハラ上司の松尾諭は色仕掛けで2種類の毒を飲ませて病院送りに。仕事を平岡に押し付けていたのは、プログラマーの森永悠希と小西桜子。森永は取引先の御曹司というコネ入社だが、会社で仕事をせずゲーム三昧。しかも会社名義で課金。森永は電波が圏外の廃ビルに閉じ込められ、小西は家の前にゴミを置かれ、愛猫がさらわれる。その後、首輪と袋に入った臓物が送られるというショッキングな嫌がらせだった。ヒィーッと声上げちゃった(もちろん猫は無事。若菜の温情)。

 そして平岡の死を蔑ろにした社長・前川泰之は、妊娠中の若妻(山下リオ)に制裁を委ねる。ま、結果イチモツ切り取られるっつう悲劇ね。それなりにエグイ。

 復讐する若菜には持論がある。「不当な扱いを受けて反撃できない遺伝子はとうの昔に淘汰されている。私たちは生き延びた遺伝子。復讐はいいものだと知っている」「殺したい人間の前でこそ、優しく、誰も恨んでないという顔をするの」。これは家族に虐待されている少女を救い、復讐の極意を伝授する第4話で語られていた。さらに第5話では、若菜の幼少期が描かれる。母(信川清順)の恋人(森岡豊)から性的虐待を受けていたおぞましい過去。若菜と淵上の固い絆の背景。淵上の思慕が切なすぎてね。

 さて、いつもならこの手のドラマで真っ先に疑われる桐山漣を忘れてはいけない。今回は人格者の役で、平岡の死に自責の念もある。桐山は若菜に恋心を抱くも、それが原因で若菜はうっかり危険な目に遭う。桐山に恋をする小林涼子の狂気ね。

 で、性格がクッソ悪い秘書の足立梨花。劇中2回も復讐されているが、ここまでくるとまひして、物足りないと思っちゃうんだよね。

 若菜が復讐を完遂したその先に、何があるのか。最終話の表情に注目だ。これ、フォーマット的には続編可能よね。シリーズ化して毎年恒例、若菜の復讐祭希望。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年9月1日号掲載

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