コロナ直撃の鉄道とホテルの新たなビジネスモデル――後藤高志(西武ホールディングス社長)【佐藤優の頂上対決】
西武沿線の強み
佐藤 その西武グループの柱は、言うまでもなく鉄道とホテルです。どちらもコロナで大きな影響を受けました。
後藤 本当にこの2年、経験したことのないダメージを受けましたね。鉄道で言えば、2020年のゴールデンウイーク前後、緊急事態宣言が発令されていた頃には、ラッシュアワーでも利用客がコロナ前の4割程度まで落ち込みました。
佐藤 リモートワークも進みましたし、会社によっては定期券を止めて実費精算に切り替えるところもありました。いま、どのくらい回復していますか。
後藤 鉄道には定期収入と定期外収入がありますが、定期は75~80%、定期外は80%強くらいまで戻っています。もっとも第7波がやってきて、また厳しくなっていますが。
佐藤 コロナ後には以前の水準に戻るとお考えですか。
後藤 戻らないでしょう。在宅勤務はニューノーマルだと思います。
佐藤 乗客減に対して、鉄道各社はさまざまな対応策を打ち出していますね。東急では定期券に沿線のさまざまな特典を組み合わせたサブスクサービスの実証実験を行いましたし、小田急ではICカードなら子供料金を一律50円にしています。こうした動きをどうご覧になっていますか。
後藤 参考にすべきところは参考にしていきたいですね。ただ地域密着を掲げる弊社は、かなり前から沿線住民の方々に対する利便性や快適性を高める事業は行ってきているんです。
佐藤 先ほどのリビングタウン化などの再開発ですか。
後藤 リビングタウンもそうですが、例えば、2010年から「こども応援プロジェクト」の一環として「Nicot(ニコット)」という駅チカの認可保育所を作っています。ニコっと笑う、の「ニコット」ですね。第1号である「Nicot東久留米」からブランド展開しまして、いま12駅に保育所があります。
佐藤 子供のいる家庭は、とても助かるでしょうね。
後藤 また駅に「emiffice(エミフィス)」というシェアオフィスも作っています。在宅勤務といっても、家ではなかなか難しい人もいますし、効率的でなかったりする。そこで駅にオフィスを作って、仕事をしてもらう。その中には、それに隣接して学童保育ができるスペースを併設しているところもあります。
佐藤 それなら子供を連れてこられる。
後藤 子供は学校が終わったらそこに来て、親が迎えに来るまで先生と勉強したり、遊んだりできますし、また習いごとも用意しています。他にも駅周辺に「Emi Cube(エミキューブ)」という仕事や趣味に使える空間を作ったり、「Emi Base(エミベース)」という車やバイクが置けるガレージ付きのスペースも展開しています。
佐藤 ニコットにエミですから、みな「スマイル」に通じるネーミングですね。
後藤 その通りです。これまで駅の中や駅の近所でも有効活用されてこなかった空間があります。そこへこうした施設を作ることで、住民にスマイルを提供していきたい。これらはかなり前から取り組んできたことです。
佐藤 子育てにも仕事にも、そして趣味にも目配りをされている。
後藤 それから西武鉄道の沿線は、関東首都圏の鉄道会社の中で、地盤が一番強いそうです。これは地盤ネットという会社の調査でわかったことです。それがたまたま見ていたニュース番組で流れた。面白い視点だったので、そこの社長にお会いして詳しい話を伺いました。
佐藤 首都直下型地震の起きる確率はかなり高いですからね。
後藤 それを考えると、地盤の固さは安全安心のベースになります。それを住まい探しの参考にしていただきたいし、ディベロッパーが再開発するにしても、基礎工事が非常に楽になることをアピールしています。
佐藤 私の父は富士銀行(当時)の技術職で、基幹コンピューターが置かれている事務センターに勤めていました。それを設置する場所は「地盤の強いところでなければならない」と教えられましたね。
後藤 その通りです。実は、西武に入った時、大正時代の関東大震災における、所沢の被災状況を調べたことがあります。あれだけの大災害の中で、所沢はかなり軽傷でした。ですから所沢もそうだし、他の西武沿線でも、その固い地盤の上で事業を大きく成長させていきたいですね。
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