不動産バブルがはじけた韓国 通貨売りと連動、複合危機に
大統領が「通貨危機は起こさない」
――ウォン売りに対し韓国で警戒感は高まっていますか?
鈴置:韓国政府はかなり緊張しています。他の通貨、例えば円もかなり売られていますが、日本は通貨危機に陥ったことはない。一方、1997年、2008年と2回に亘り通貨危機に陥った韓国人は「デジャヴ」に襲われるのです。尹錫悦大統領も8月24日の「第2回マクロ金融状況点検会議」の冒頭発言で以下のように述べました。
・過去の危機の状況と比べ、我が国経済の対外債務の健全性は大きく改善されましたが、決して気を緩めるわけにはいきません。
・政府は6月に非常経済体制に転換し、毎週私が直接、非常経済民生会議を主宰し、民生の懸案をひとつずつ慎重に対処しています。
・金融・通貨のいかなる危機的状況も再び発生しないよう、また、民生の困難が深まらないよう、徹底的に点検し対応していきます。
この政権で、大統領がこれほど明確に通貨危機への警戒感を表明したのは初めてです。不動産バブルの崩壊が国内ではさほど注目されていない段階で、これほどウォンが売られているのです。
国民が過去の2度の通貨危機を思い出し、「政府はちゃんとやっているのか」と不安になるのは当然で、大統領もそれに対応する必要があったのです。
ことに韓国は通貨危機の特効薬と信じられている米国や日本との通貨スワップを失っています。米国との為替スワップは2021年12月末で終了しました。2022年7月にJ・イエレン(Janet Yellen)財務長官が訪韓した際、韓国では「スワップ再開」を依頼しようとの声が高まりましたが、色よい返事はもらえませんでした。
日本から通貨スワップを付けてもらおうとの意見も韓国メディアでしばしば語られます。しかし、極度に関係が悪化した日本が韓国とのスワップを再開する可能性は低い。
李明博(イ・ミョンバク)政権が日本から通貨スワップを得た途端に、掌を返して竹島に上陸したり、天皇陛下に謝れと言い出した実績もあります(「通貨スワップを仇で返した韓国」参照)。
自民党の外交部会には「2度と韓国にスワップは与えない」と息巻く議員が多いのです。いくら岸田文雄首相がお人よしでも、日本から通貨スワップを得るのは難しい。
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