大谷翔平の「呪い」を恐れて球団を“身売り” エ軍オーナー「今がその時」のウラ事情

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八方塞がりだったモレノ氏

 モレノ氏はメキシコ系米国人として初めてMLB球団のオーナーになった。中南米のファンを開拓し、米誌『スポーツ・イラストレイテッド』では「最も影響力があるマイノリティー」に選ばれた。晩節を汚し、巨万の富を築いたサクセスストーリーにミソをつけることは耐えがたかったに違いない。

 しかし、自身の名誉を守ろうとすれば来オフには大谷を、みすみすFAで流出させることになる。慰留するには資金繰りが厳しく、トレード移籍もままならない――。モレノ氏は八方塞がりになっていたように見えた。

 エンゼルスは17年オフ、200億円超の価値があるとされながらも労使協定の年齢制限のため、最低保障の5000万円程度で日本ハム・大谷の獲得に成功した。そこから大谷は、メジャーでの5シーズンで米球史に残る選手に成長した。巨大になりすぎた大谷はいつしかモレノ氏の「悩みの種」になっていたのではないか。

身売り交渉の切り札が「大谷」

 追い打ちを掛けたのが、5月下旬、アナハイム市のシドゥー市長がエンゼルスタジアム周辺の再開発を巡る不正疑惑で、辞任した件ではなかったか。同市が球団に、球場とその一帯の土地を売却する交渉で、同市長は機密事項と引き替えに選挙資金の供与を受けようとしていたとしてFBIが捜査に乗り出した。売却話は白紙に戻り「再開発が頓挫したことで、オーナーは一気に球団の身売りに舵を切った」(在米スポーツライター)。

 歩調を合わせるようにチームは低迷する。6月上旬のジョー・マドン監督解任もカンフル剤とはならず、夏場に大谷のトレード報道が過熱。最終的にはヤンキース、ドジャース、メッツなど2桁の球団が獲得を打診したことが判明した。

 この間、米メディアの「大谷のためにもトレードを」との大合唱の中、それでもモレノ氏は頑としてトレードに応じなかった。

「今考えると、合点がいく。モレノはこの頃には既に球団売却を視野に入れており、大谷がいることは球団の価値を高めるため不可欠だと考えていたのではないか。28歳と投打にほぼピークにある大谷がいるか、いないかで球団の売却額が左右される、と」(同)

 モレノ氏がウォルト・ディズニー社からエンゼルスを買収した時の額は1億8400万ドル(約252億円)だった。それが今年3月時点で、米経済誌フォーブスによると、22億ドル(約3000億円)と10倍以上に価値が膨らんだ。25億ドル(約3400億円)との最新の試算も報じられるなど、大谷は売却交渉で、さらなる上積みを引き出す“切り札”になり得る。

 身売りすることで、モレノ氏は莫大な「利益確定」を達成すると同時に、大谷の去就という難題から逃れられる。「大谷を売らずに球団を売る」というまさに“ウルトラC”に打って出た。

 それにしても大谷のスケールの大きさである。身売りで去就が不透明になったことに同情するよりも、一選手が、オーナーが球団売却を決断する際の最重要ファクターになったことに驚くしかない。

津浦集(つうら・しゅう)
スポーツライター

デイリー新潮編集部

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