昨年5月に比べ12倍!欧州で天然ガス価格高騰のウラ 原油、石炭への“逆流現象”も

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中国もこのところ石炭需要を拡大

 ガス不足はEU域内で暮らす人々の生活を直撃している。

 ドイツでは今年10月以降のガス料金が前年に比べ3倍に上昇することになっており(年間3240ユーロ(約44万円))、国民は悲鳴を上げているが、政府は打つべき手段を有していない。欧州ではガスボイラーを石油や石炭で稼働できるように改造する企業が続出している。

 欧州連合(EU)はロシア産天然ガスの供給不安を踏まえ、天然ガスの消費量を今年8月から来年3月にかけて過去5年平均より15%減らすことにも合意している。

 原油以上に代替需要が生まれているのは石炭だ。

 IEAは8月上旬「今年の世界の石炭消費量は前年比0.7%増の約80億トンになる」との予測を示した。80億トンという規模は過去最高だった2013年と同水準であり、来年は過去最高を更新する可能性が高い。増加を牽引しているのはインドとEUだ。

 EUではドイツを始め、イタリア、フランス、英国、オランダ、オーストリアが石炭火力発電の利用拡大を相次いで表明している。気候変動対策として石炭消費の削減を世界各国に強く要求してきたEUが、電力確保のためにやむなく石炭の購入を大幅に増加させているのはなんとも皮肉なことだ。

 世界最大の石炭消費国である中国もこのところ石炭需要を拡大している。全国的な電力不足が昨年発生した中国は現在、歴史的な猛暑に悩まされており、石炭火力への期待は高まるばかりだ。中国は世界の石炭発電能力の半分を擁し、発電向けの石炭需要は世界の石炭需要の3分の1を占めている。

 天然ガスは温暖化対策の切り札として位置づけられてきた。天然ガス(メタン)の化学構造はCH4、炭素に対する水素の比率がこれ以上高い燃料は自然界に存在しない。天然ガスは重量当たりの熱量が最も大きく、環境負荷(熱量当たりの二酸化炭素の発生量)が最も少ない「究極の化石燃料」なのだが、世界最大の天然ガス輸出国であるロシアが紛争当事者になったことでその導入促進が大きく妨げられていると言わざるを得ない。

 温暖化対策を着実に推進する観点からも、ウクライナ危機の早期解決が求められているのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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