技能実習制度のベトナム人はそんなにヤバいのか 実務経験者が語る「反社とのリアルな関係」

国内 社会

  • ブックマーク

油っぽい弁当

 本人は、「これがバックにいると言われたヤクザに違いない」と恐怖し、おかしいとは
思いながらも言われるがままにするしかなかったという。

 朝早くにミニバンに乗せられ、どこなのか見当もつかない場所へ行って、ひたすら穴を埋めたり資源ゴミの仕分けをさせられた。

 現場には、同じように暗く辛そうな顔色をした外国人が複数名いたというが、互いに片言の日本語を話すだけでは、出身国以外の詳細はわかるはずもなかったそうだ。

 タコ部屋に放り込まれてからは、仕事があってもなくても一日に3回の弁当がもらえた。だが、スマホは取り上げられ、仕事をしたはずなのに借金の返済に充てたと言われて小遣い銭すら与えられず、寝て起きてよくわからない仕事をさせられるという毎日を繰り返した。弁当は油っぽくて味付けが口に合わず、食べきれないことも多々あった。

 そんな毎日をどれくらい過ごしたか、手元にカレンダーもなくもはや数えるのも疲れ果てたある日、偶然にも隙を見つけ、着の身着のままでタコ部屋を脱走。都合3回目の脱走劇だったが、スマホを取り上げられているので、現在地がどこなのかさえわからない。

管理団体にSOS

 とにかく向かおうと考えていたのは、北関東の某所にある寺である。実習生や外国人労働者の救済を行なっていると、以前に現場で知り合った別の会社の実習生が言っていたのを覚えていたのだ。

 交番には警官がいるから避け、道行く人に「〇〇県の〇〇寺へ行きたい」と訪ね続けていると、スマートフォンで検索してくれた日本人がいた。

 地図アプリによれば、そこへたどり着くまでの距離は50kmほど。一都一県を跨がねばならなかったが、大きな道や駅を目印に紙に平仮名で書いてもらい、夜を徹しても歩くしかないと覚悟した。

 親切なことに、道を教えてくれた日本人が500円玉をくれたので、近くのコンビニでパンと水を買い、教えられた道筋を目印の駅を目指して歩き出した。

 しかし、張り切ってはみたものの、肉体の酷使が続いたなかでそうそう歩き続けられるものでもない。

 2番目の目印にした駅に着いたところで公衆電話を見つけ、パンと水を買った釣り銭でもともと世話になった監理団体、要は筆者がいた団体へ電話をかけ、代表と担当者に迎えに来てもらうことにしたのだった。監理団体の電話番号は、覚えやすい数字の並びだったので唯一記憶していたのだそうだ。

 もちろん、これで大団円ではない。激怒していた代表は、どこの国であろうと「人として、やって良いこと悪いこと」を散々に説き、実習生と同じ国籍、同じ地域出身だった担当者も強い口調で訳していたという。

奴隷制度の実態

 とはいえ、パスポートも在留資格証も所持していないから、状態としては不法に滞在していることとなる。しかも、実習生として受験が義務付けられている技能検定試験も受けていない。

 もう帰国するほかないのだが、本人の所持金では旅券など買えるわけもなく、領事館へ行くことすらままならない。

 筆者が退職するまでに決着を見なかったので、その後どうなったか改めて訊ねてみたのだが、「お得意先に頼んで何とかしてもらったよ」としか聞かされなかった。

 技能検定も受けず、脱走、失踪を繰り返した実習生は、当然ながら厄介者だ。それを短時間のうちに「何とかした」というのは、やり方を間違えれば代表自身も譴責を受けてしまうことだけに、胃に穴が空くほど神経を使ったに違いない。

 ともあれ、外国人技能実習生に対する非人間的な扱い、奴隷のようにこき使う仕組みの真相、その一端が脱走実習生のいきさつから垣間見えた。

 つまるところ、制度の落伍者を反社がうまく利用しているのである。失踪の渦中や退職後に筆者が直に聞いた限りでは、関西や中部でも同様のことは珍しくもないという。

今も残る「じゃぱゆきさん」ネットワーク

 ある建設関係の会社で、実習生にまつわる業務に従事するベテラン担当者が筆者に言った。

 いわく、とりわけ東南アジアについては、フィリピンやタイの「じゃぱゆきさん」の頃から、向こうの“口入れ屋”とこちらの“手配師”のネットワークがある。

 現地でも日本でもやり方は同じで、資金と管理者を出して堅気の人間を立て、正面から団体の認定を受ける。実際に実習生や労働者を差配するのは、送り出しも受け入れも反社の人間なのだが、表面的には正規のルートと手続きに則っているため、簡単にバレることはない。

 これを複数持っておき、不都合があれば乗り捨て、乗り換えを繰り返す。後始末は人権に配慮する篤志の団体や宗教団体がやってくれるから、後のことなど知ったことではない。

 口入れ屋は売春と並んで最古のビジネスだと聞いたことがあるが、人を商材とするだけに強面、厚顔が何より効いて長続きするということか。

 そうした連中に乗っかって楽をしようとする企業も実在する。

 地域の最低賃金と実際の支払い額との差額を「内部留保」して稼ごうとするのに始まり、会社には偽って部署全体で差額をプールして盆暮の宴会費用にするなど、下衆の悪い噂はどこからか入ってくるものだ。

次ページ:“口入れ屋”の跋扈

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[4/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。