女優・石山蓮華が語る「電線偏愛」 絡まる電線に息づく「生活臭」と「艶めかしさ」
卒業式に電線と“帰宅”
「通っていた中学校は実家から徒歩で通える距離でした。友達は多くありませんでしたが、卒業式の日、数少ない友人のひとりと一緒に帰れたらいいなと考えていた。けれど、そのコには別の用事があって一緒には帰れませんでした。卒業式にひとりで帰るなんて“寂しいな”と思いながら歩いていた時、ふと見上げたら電線が私と並走するように家まで繋がっていることに気付いた。まるで私の家路を見守ってくれているようで嬉しくなり、電線がグッと身近な存在になったように感じました」(石山さん)
その後、進学した高校では写真部に入り、被写体としても電線を観察するようになった石山さん。
「電線は見る位置や角度、時間帯によってパワーや艶めかしさを感じるなど、“表情”がコロコロ変わるのも面白い。ただ見るだけじゃなく、私は電線の手触りや重さなどを感じるのも好きで、特に塩ビ被覆のしっとりとした感触がお気に入りです。舞台の仕事で緊張した時、袖裏で機材用の配線に触れて気分を落ち着かせたこともあります。スタッフさんに見つかった時は“危ない”と注意されたので、いまは反省して見るだけにしています……(笑)」(石山さん)
仕事で落ち込んだ時も頭上に目を転じ、電気や情報を寡黙に送り続ける電線を見て“私も頑張ろう”と奮起したこともあるという。
「もともと世間話が苦手で、人とのコミュニケーションが得意なほうではありませんでした。でも“電線愛好家”と名乗ってからは、電線という偏愛対象を通して人と関わることで、随分ラクになった部分があります。好きなものを好きと公言することは、私にとって大事なんでしょうね。電線の魅力は奥深くて多面的。それを少しでも多くの人に知ってもらうことが、いまの私の使命と感じています」(石山さん)
近年は景観を損ねるとして「地中化」の進む電線に“援軍”の登場だ。