今からでも間に合う「夏ドラマ三選」 英国ミステリー並み「初恋の悪魔」の“真犯人”を考察

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日本テレビ「家庭教師のトラコ」(水曜午後10時)

 同局「家政婦のミタ」(2011年)と同じく、脚本は遊川和彦氏(66)。制作陣もほぼ一緒。だから似ている。一番の共通点は主人公が家政婦の三田灯(松島菜々子)と家庭教師の根津寅子(橋本愛)で、家庭に入り込む職業である点だ。

 もちろんテーマは違う。「家政婦のミタ」が表したのは「喪失と再生」、さらに父子関係であり、東日本大震災によって途方もない喪失感を味わっていた視聴者が熱烈に支持した。

「家庭教師のトラコ」の場合、遊川氏が現在の世の閉塞感を意識したのではないか。「破壊と創出」と母子関係が描かれている。

 例えば、トラコが受け持つ生徒は3人いるが、うち定食屋を営むシングルマザー・下山智代(板谷由夏)の1人息子で小6の高志(阿久津慶人)が、智代への不満を漏らすと、トラコは「母さんが嫌なら、父さんのところに行けば」と焚き付ける。父親のところへ行かせてしまった。だが、高志は母親と離れることでその深い愛情を再認識。戻って来る。母子関係はより強固になった。

 高3・上原守(細田佳央太)の母親・上原里美(鈴木保奈美)は銀行重役の後妻に収まり、何不自由ない生活を送っていたものの、愛のない家庭であることをトラコが気づかせた。離婚へと誘導した。里美と守は豪邸を出たが、幸せそうだった。

 第6話まで放送が済んだ。今後、トラコの隠された目的が明かされる。

TBS「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(金曜午後10時)

 有村架純(29)と中村倫也(35)がダブル主演中のリーガルドラマ。有森は司法試験に4回落ちた東大卒のパラリーガル・石田硝子を演じ、中村は文書も映像も見たモノは全て記憶できるフォトグラフィックメモリーの能力を持つ弁護士の羽根岡佳男(中村倫也)に扮している。

 1話完結だから、どこから見ても楽しめる。物語はコメディー風味が強いが、知的好奇心もくすぐってくれる。

 これまでに扱われた事件は第1話「カフェでスマホを充電(窃盗罪)」、第2話「小学生がゲームで高額の課金?(未成年者取消権)」など誰もが直面し得るものばかり。これもいい。

 羽根岡の記憶力は人間離れしているが、交渉能力はあきれるほど低い。おまけに自分がどう見られるかを情けないくらい気にしている。奇人に属する。中村は奇人に扮すると抜群に光る。その演技だけでも一見の価値がある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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