「酒を飲むと豹変」 シンガーソングライター・山崎あおいが語る、“東京”を教えてくれた友達
めちゃくちゃな人が許容されてしまう東京
お酒の入ったTちゃんは、そんな感じでまさに「めちゃくちゃ」だった。別の友人の口に、ゆで卵を殻付きのまま押しこんだり、私の新曲を面と向かって「クソダサい」と罵ったりした。翌朝には「記憶にない」と言いながらも、申し訳なさそうに必ず前日の言動をわびてきた。
こんなにめちゃくちゃな人が周囲から許されている、そしてつい自分も許してしまうのは、ここが東京だからだと、当時の私は思った。全ての道は母に通ずる、狭い地元。そこでは友人たちも私も、なるべくうわさにならない生活を心がけていた気がする。
いまとなっては、世の中にはTちゃんのような酒乱もいるのだとわかるけれど、彼女が作り出した混沌の数々が、私の中の「東京」を180度以上変えたことは間違いない。
東京は、架空の都市ではなくなった。Tちゃんだけではない、無数のめちゃくちゃを物ともせずに包み込む、あたたかい、巨大な街だ。
「夢の国」は千葉県にあった。しかし私はまだ、ファッション誌で見た「裏原」の文字がどのエリアを指すのか知らない。
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