「酒を飲むと豹変」 シンガーソングライター・山崎あおいが語る、“東京”を教えてくれた友達

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東京は「実在しない架空の都市なんじゃないか」

 北海道札幌市出身のシンガーソングライター・山崎あおいさん。高校在学中にYAMAHA主催のコンテストでグランプリ&特別審査員賞をW受賞し、大学進学とともに上京した彼女の目に、「東京」という街はどう映ったのか。そこでできた、友人との思い出は――。

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 北海道育ちの両親から生まれ、北海道で育った私。そんな私にとって東京は、けっこう長いあいだ、おとぎ話の中にあった。「夢の国へ行ってきた」と自慢するクラスメートからもらう、お土産のクランチチョコ。年頃になって買うようになった雑誌で見た、原宿系ファッション。キラキラでいっぱいの東京は、実在しない架空の都市なんじゃないか、とすら思えた。そこに一人飛び込むのだから、「上京」なんて一大イベントだ。

 18歳。大学進学とともに私は東京に越してきた。しばらくは同時期に地元を出た友人とばかり遊んでいた。しかし、やはり、と言おうか。次第に彼らと連絡を取り合うことも減り、疎遠になる。大学で、私にも少しばかり友人ができたのだ。そのなかの一人、Tちゃんが、私に新しい「東京観」を激しく叩きつけてきた。

せっかくおごったのに…

 Tちゃんは、一見すると大人しめで美人な子だ。授業で先生のアシスタントを買って出たり、友達が主催する集まりにはできるだけ顔を出したりするような、いわゆる「いい子」でもあった。しかし、お酒を飲むと豹変する。

 ある日、私とTちゃんは、10人ほどの同級生とともに飲み会に参加していた。宴もたけなわ、となった頃、私はみんなより一足先に居酒屋を後にし、隣のコンビニへ行った。酔い覚ましの水を買おうとレジ前で財布の中をあさっていると、ぽん、と視界の隅にブールドネージュ(フランス菓子)が現れた。ブールドネージュ? 慌てて振り向くと、酔って目が半開きになったTちゃんがいる。これも買えよ、という圧を感じる。なぜあなたのブールドネージュを私が、という正論をぶつけるのも面倒で、数百円多く支払い、二人でコンビニを出た。そのときTちゃんの口から放たれた言葉は、「ありがとう」ではなかった。

「どうして買ったの? 全然嬉しくない」

 え、あれは買ってくれってことではなかったの?

「求められたから買うなんて、優しさじゃない」

 じゃあ、何が正解だったの。

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