巖さんの実家で発見された「とも布の謎」 弁護団「痛恨のミス」を検証【袴田事件と世界一の姉】

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「とも布は捏造」と村山決定

 とも布について、2016年3月に巖さんの再審開始決定と釈放を決めた静岡地裁の村山浩昭裁判長は、「捏造された証拠である疑いが強まった」と明確に指摘した。この歴史的な村山決定から引用する。

《(4) ズボンの端布の押収経緯
 鉄紺色ズボンの端布が袴田の実家から押収されたが、その際、一緒に押収された物は、捜索差押許可状の目的物となっていたバンドだけである。本件は、極めて重大な事件であったから、5点の衣類に関係のありそうな物、すなわち袴田の着衣やこれに関連する物を広範に押収するのが自然であるのに、一見しただけでは事件との関連性が明らかでない端布を押収して、他には目的物とされていたバンドしか差し押さえていないのは、不自然である。加えて、5点の衣類と端布は、いわばセットの証拠とも言え、5点の衣類にねつ造の疑いがあれば、端布についても同様の疑いがあり、袴田の実家から端布が出てきたことを装うために捜索差押を行ったとすれば、容易に説明が付く》

 明快でわかりやすい。すでに巖さんの母・ともさんの元に松本警部と岩田警部補が訪れてから47年半もの星霜が流れていた。どうしてこれが原審で出なかったのか、悔やまれる。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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