殺人犯「松井知行容疑者」が逃亡先の南アフリカで自殺するまで 一緒に逃げた女性と遺書の中身

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ワールドカップ南ア大会でも詐欺

 2010年、サッカー・ワールドカップ南アフリカ大会が開催された時、松井は、知人と共謀して日本人を対象にインターネットでチケットや宿泊などを手配すると宣伝。100人以上から1億円超を騙し取っていた。

「この詐欺には、南アに同行した女性も関わっていました。松井容疑者から指示されたのでしょう」

 女性は日本にいる両親に、密かに電話をしていたという。

「両親は彼女から『乳がんの疑いがある』と聞いたそうです。両親はそのことを警察に通報。それによって南アの警察は、3人が訪れたと思われるクワズール・ナタール州にある病院を片っ端から回った。アジア系の女性が乳がんの診療に来ていないか調べたのです。その結果、該当する女性を突き止めました。中国人の偽名で乳がんの診察を受けていたのです」

 女性は、自分の身辺に捜査が迫っていることを知り、2011年11月、警視庁に出頭する意向を伝え、日本に一人で帰国した。

「女性は成田空港で逮捕されました。殺人容疑で逮捕されたものの、容疑不十分で不起訴となっています」

 一方、紙谷も松井との生活に嫌気がさし、2011年に松井のもとを離れた。

「紙谷容疑者はヨハネスブルクやケープタウンで暮らし、家のリフォームやエアコンの修理や門番など色んな仕事をしていましたが、コロナ禍で生活が成り立たなくなり、2020年8月、南アの日本大使館に出頭しています。9月に帰国して、逮捕されました」

 話は前後するが、2016年6月、全国17都府県のコンビニのATMで偽造クレジットカードが一斉に使われ、現金約18億円が不正に引き出される事件が起こった。

「南アのスタンダード銀行の約3000件のクレジットカード情報が流出し、偽造クレジットカードが作成されたのです。これが使われたわけですが、この事件に松井容疑者もかかわっていた疑いがあります」

 さて、松井はなぜ自殺したのか。

「女性の帰国や、紙谷容疑者の離反で、一人になって先行きを悲観して自殺したと思われます。遺書も残していて、『迷惑をかけた』と書いてあったそうです」

 警視庁は捜査に協力してくれた南アの警察に感謝状を贈った。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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