村上宗隆、山川穂高は達成できるか ホームラン50本以上を打った日本人選手の“ドラマの数々”
ノムさんが「生涯唯一狙って打ったホームラン」
小鶴の本塁打記録は63年、野村克也(南海)によって更新される。前年、パ・リーグ新記録のシーズン44本塁打を達成した野村。9月29日の阪急戦で自らの記録を更新する45号を放つと、10月16日の西鉄戦で50、51号と連発し、ついに小鶴の日本記録と肩を並べた。
記録更新がかかった翌17日の近鉄戦は、泣いても笑ってもシーズン最終戦だったが、野村は1打席目から三飛、死球、三ゴロと快音が聞かれない。
3対0とリードした7回にシーズン最後の打席が回ってきた。山本重政と児玉弘義との近鉄バッテリーは、くしくも前年のシーズン最終戦でも野村にパ・リーグ新の44号を献上しており、意地でも打たせたくない。
案の定、初球から3球続けて外角低めに外し、勝負を避けてきた。四球を覚悟した野村だったが、4球目も外角低めのボール球と確信すると、一か八かで思い切り踏み込んで打ちにいった。
ボールがギリギリバットの届くコースに入ってきたことも幸いし、低い弾道のライナーが、左中間席最前列にギリギリ飛び込んだ。
「生涯唯一狙って打ったホームラン」で、13年ぶりに小鶴の記録を塗り替えた野村は、「フェンスに当たるかと思ったら入ったな。胸が一杯になった。これで10年ぐらいはオレの名前が残るな」と感激をあらわにした。
しかしながら、野村の快挙は、“たった1年”で王に更新されてしまう。
49年間歴代トップを守った「世界の王」
64年、開幕戦の国鉄戦で金田正一から右翼場外に特大のシーズン1号を放った王は、5月3日の阪神戦でNPB史上初の1試合4打席連続本塁打を記録するなど、連日アーチを量産する。さらに、9月6日の大洋戦で初回に鈴木隆から右越えに52号、6回に峰国安から右中間に53号を放ち、野村を一気に抜き去った。
試合後、王は「タイ記録の52号はそんなにいい当たりではなかったが、気分的に非常に楽になった。53本の中では、やはり(開幕戦での)1号が印象に残っている」と振り返っている。
王は9月21日の広島戦で54号、同23日の大洋戦で5回に佐々木吉郎から右翼席上段に55号を放ち、2013年にウラディミール・バレンティン(ヤクルト)に破られるまで49年間歴代トップの座を守りつづけた。
王は、通算本塁打数歴代トップの野村を追い抜き、自身初の三冠王に輝いた73年にも51本塁打、ハンク・アーロンを抜いて世界新の通算756号を達成した77年にも50本塁打を記録している。
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