幸せな老後のための「五つのM」とは 「老年医学」の新常識を米在住医師が明かす

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趣味があると死亡リスクが低くなる?

 次に、いきがい自体が老化を防いでくれるという視点からです。高齢者約2千人を対象にした調査によると、趣味やいきがいを持っている人とそうでない人を比べると、前者のほうが死亡リスクが低く、自立度も高いという関連が知られています。よく言われますが、やはりいきがいや趣味を持つことが、健康長寿へとつながっていくのです。

 これまで見てきた五つのMのコンセプトに基づいて、高齢者を多角的、総合的に捉える老年医学の考え方が広まることが、高齢者の幸せだけでなく、社会全体の幸福をもたらすと私は考えています。

「エイジズム」という言葉があります。年齢に対する偏見を意味しますが、高齢者に対する蔑視として使われることも多い言葉です。

「老害」には英語対訳がない

 このエイジズムは、コロナ禍によって強まったと感じます。新型コロナウイルスに感染して亡くなっているのは高齢者が多いこともあり、なぜ高齢者の命を守るために社会全体が自粛を強いられるのだという反発が起きました。また、医療リソースの奪い合いとなれば、高齢者を切り捨てろというような風潮が実際にあった。年齢による偏見が強まったと思います。

 さらにミレニアム世代、Z世代などと名付けられ、世代論がはやり、とりわけ日本では高齢男性のセクハラやパワハラを切り取って、関係のない人まで「老害」だと斬って捨てる乱暴な議論さえ出てきました。人権意識が高まるなか、なぜか年齢に対する偏見だけは見過ごされているような気がします。

 そもそも「老害」は英語に対訳が見当たらず、日本特有の言葉といえます。誰もがいずれは高齢者になるのに、高齢だけを理由に「害」とみなしがちな社会が健全だといえるのか甚(はなは)だ疑問です。

 したがって、老年医学の指針となっている五つのMへの理解を深め個々の違いに目を向けることで、高齢者の健康にとどまらず、社会全体の健全化につながるのではないかと私は考えています。

山田悠史(やまだゆうじ)
米マウントサイナイ医科大学(米国老年医学専門医)。1983年生まれ。米国老年医学・内科専門医。慶應大学医学部卒業後、日本で医師として働いた後に渡米。2015年から米国ニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学のべス・イスラエル病院内科に勤務。現在は同大学老年医学・緩和医療科で高齢者診療にあたっている。今年6月に『最高の老後「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)を出版した。

週刊新潮 2022年8月11・18日号掲載

特別読物「米国『老年医学会』の新常識 『高齢者』が『幸せな老後』を送るための『5つのM』」より

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