幸せな老後のための「五つのM」とは 「老年医学」の新常識を米在住医師が明かす
薬の種類が増える負の連鎖
第3のMは「Medications(くすり、ポリファーマシー)」。高齢者になれば複数の持病を抱えるケースが少なくありません。必然的にいくつもの種類の薬を併用することになります。もちろん、絶対に飲まなければいけない薬がある一方で、薬の種類が増えれば増えるほど、ひとつの薬が他の薬の効果を不適切に強めたり、逆に弱めたりする「薬物相互作用」のリスクが増えます。それが、ポリファーマシー(多剤服用)が引き起こす問題のひとつです。
気を付けなければいけないのは「処方カスケード」です。薬を服用していることに起因する有害な反応を新たな病状と診断され、さらなる処方が生まれることを意味します。言ってみれば、薬の副作用を別の薬で収めようとするようなもので、この流れが続くと薬の種類が増え続けるという負の連鎖が起きてしまいます。
なぜ「薬の足し算」が起こる?
この事態は、医師が「薬の足し算」は得意なものの「薬の引き算」が苦手であることと、医療者同士のコミュニケーション不足などによって引き起こされます。
医師は「それぞれの病状に合った薬を処方すること」、すなわち「薬の足し算」は容易にできますが、薬による副作用かもしれないから少し止めて様子を見てみようという「薬の引き算」は必ずしも得意ではありません。
それでも、ニューヨークでは医療機関の間で患者さんの電子カルテの取り扱いに関する連携がとれるようになり、患者さんのIDとひもづける形で服用薬の把握が容易になりました。
しかし、日本ではお薬手帳が中心であり、その上、手帳を持っていない方もいますので、これからも「薬の足し算」が懸念されます。
「薬の引き算」を効果的に行うためには、まずはかかりつけ医を決め、そのかかりつけ医に、オーケストラにおける指揮者になってもらって、「薬の足し引き」を適切かつ総合的に判断してもらうことが重要だと思います。
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