幸せな老後のための「五つのM」とは 「老年医学」の新常識を米在住医師が明かす

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 老後をいかに快適に過ごすか――。人生100年時代を迎え、この“難題”が私たちの最重要テーマのひとつとなっている。『最高の老後』の著書がある専門家が、米国の臨床現場での経験をもとに新常識を解説する。幸せな老後のキーワード、それは……「五つのM」。【山田悠史/米マウントサイナイ医科大学】

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「もう70歳を超えているので仕方ないですよ」

「80歳を超えていますから、手術は無理でしょう」

 日本の医療現場では、こうした高齢者に対する「年齢による区分」が依然として根強く残っているように感じられます。しかし、70歳ですでに寝たきりに近い状態の方もいれば、90歳になっても現役として職場に立ち続けている方もいます。

 人間は、生まれたばかりの0歳の頃が最も互いに似通っていて、年を取れば取るほど個体差は広がり、老化の進み具合にも差が出てきます。つまり、同じ年でも老化の速度は全く異なるため、単に患者さんの年齢と疾病を見るだけではなく、総合的にその高齢者が今どういう状況にあるのかを判断する必要があるのです。

 こうした考えに基づいて、高齢者の事情を俯瞰的に捉えて診療をすべきではないか。子どもが抱える特有の事情から「小児科」があるように、高齢者も統合的に診るべきではないか。こうして生まれたのが「老年医学」です。

 そして現在、米国等において、高齢者を診療する際の基本方針として広まっているのが「五つのM」という概念です。

臨床現場に浸透する「五つのM」

〈こう解説するのは、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学べス・イスラエル病院の内科に勤務後、現在は同大学老年医学・緩和医療科で高齢者診療にあたっている山田悠史医師である。

 マウントサイナイ病院は170年の歴史を持ち、その老年医学科は100名以上の医師が在籍して、全米最大の規模を誇る。慶應大学医学部卒業後、日本で医師として働いていた山田氏だが、冒頭で語ったように高齢者診療のあり方に疑問を持ち渡米。そして目下、米国の医療現場で日夜、高齢者の診療を続けている。〉

 五つのMは、2017年にカナダおよび米国の老年医学会によって初めて提唱された高齢者診療におけるコンセプトです。歴史はまだ浅いものの、その分かりやすさも手伝い、この考え方はすでに臨床の現場に広く浸透しています。

 日本では、コロナ禍が始まった時に「3密」という言葉が生み出され、新型コロナウイルス感染症対策への理解が促進されたと思います。五つのMもそれと似ていて、この言葉によって老年医学とは何かということ、高齢者の診療にあたって気を付けるべきことがシンプルに整理されました。

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