“スター不在”の甲子園決勝 仙台育英、“白河の関越え”への執念か、下関国際、大阪桐蔭を倒した勢いか

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4試合すべてを継投で勝利

 一方、下関国際はどうだろうか。4試合全てを継投で勝ち上がってきた。エースで、左腕の古賀康誠(3年)が先発し、ショートを守る仲井慎(3年)がリリーフで試合を締めるのが、“必勝リレー”となっている。

 しかしながら、山口大会では、古賀が故障明けで、この形での継投は1試合もなく、この“必勝リレー”は甲子園で確立されたというのも面白い。仲井の成長は著しく、ここまでイニング数(17回2/3)を上回る奪三振(20個)をマークしたほか、1イニングあたりの被安打と四球で示す「WHIP」は0.96と、抜群の成績を誇っている。決勝戦もリードした展開で、仲井を投入できれば、優勝に大きく近づくだろう。

 下関国際の打線は、仙台育英と同様に、特定の選手が打つというより、上位から下位までしぶとい打者が揃っている。下関国際・坂原秀尚監督は、選手たちに常々弱者が強者に勝つためにはどうすれば良いのかということを話しており、チーム全員がボールに徹底して食らいつく姿勢は、相手投手にとって非常に厄介であることは間違いない。また、4試合で7失策と、ある程度のミスが出ているとはいえ、守備への意識が高く、全員が打球や送球に対してバックアップをする姿勢は見事である。

 仙台育英と下関国際、いずれもチームを象徴するようなスター選手がいない。裏を返せば、それだけチーム全体で勝ち抜いてきたということだ。一人のエースに頼らない戦い方は、現代の高校野球における理想的な姿といえよう。今後、これに追随する形で、チーム作りと戦い方を変える学校が出てくる可能性も高くなりそうだ。

甲子園の女神はどちらに微笑むか

 最後に、両チームの監督が決勝に向けてのコメントを紹介する。

「まだまだ白河の関は見えていません。決勝に進出したくらいで簡単に超えられるとは思っていないです。一歩一歩、地道にそこを目指して、最終的にそれが達成できればいいですけど、自分たちを見失わずに身の丈に合った野球を丁寧にやりたいと思います」(仙台育英・須江航監督)

「ここまでの選手たちの成長に本当に驚いています。ただ、仙台育英高校さんは非常に能力の高いチームですので、自分たちはただただ食らいついていくだけだと思って臨みたいと思います」(下関国際・坂原秀尚監督)

 いずれの監督も甲子園での決勝進出は初めてで。高校野球での監督のキャリアもそこまで長いわけではないとはいえ、それでも冷静に受け答えをする姿が印象的だった。果たして“甲子園の女神”はどちらに微笑むのか。104回目の決勝戦から目が離せない。

<夏の甲子園、決勝戦までの歩み>
【仙台育英】
<2回戦>仙台育英10-0鳥取商(鳥取)
<3回戦>仙台育英5-4明秀日立(茨城)
<準々決勝>仙台育英6-2愛工大名電(愛知)
<準決勝>仙台育英18-4聖光学園(福島)

【下関国際】
<2回戦>下関国際5-0富島(宮崎)
<3回戦>下関国際9-5浜田(島根)
<準々決勝>下関国際5-4大阪桐蔭(大阪)
<準決勝>下関国際8-2近江(滋賀)

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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