里見香奈は棋士編入試験“黒星スタート” 先輩の今泉健司・五段はどう見たか

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「今、プロでも5割は勝つ」

 編入試験受験者の先輩である今泉は、里見にこうエールを送る。

「今回は徳田四段が強かったと言うしかない。里見さんは得意の中飛車で9筋の歩を進め、2筋の歩を取らせるなど趣向を凝らした作戦で臨んだ。悪くはなかったけど、ちょっと勝ちにくい感じの将棋になってしまい、全体的に及ばなかった。でも、細かいミスはあっても大きな失着があったわけでもないし、悔いが残る内容ではなかったから気持ちの切り替えは早いと思う。こうなったら2局目(9月22日・東京。試験官は岡部怜央・四段)が大事。これを勝たないと苦しくなる。頑張ってほしい」

 今泉は最近、里見とNHK杯トーナメントを戦った。振り飛車党の2人が得意とする中飛車同士のぶつかり合いは、終始劣勢だった今泉が最後に逆転勝ちした。終局間際は、AI(人工知能)が混乱したかのように2人の優劣の評価値を激しく反対に振る大熱戦だった。

「もう、ぼろぼろにやられていましたよ。かろうじて勝てただけ。里見さんは本当に強いのです。半端なプロ棋士なんかより修羅場をくぐってきた経験もずっと多いですし、棋士に交じってそれだけの成績を上げてきた。メディアの皆さんは女性ということで注目しているのでしょうが、僕から見れば里見さんが男だろうが女だろうが全く関係ない。本当に強いと言うしかない。仮に今、棋士になっていても、最低でも5割の勝率は上げているはずですよ」と今泉は評価する。

飾らない人

 編入試験の先輩として「メディアから里見へのアドバイスも求められる」という今泉は、こうも語る。

「キャリアを見ても里見さんは僕なんかより格が上なんです。本当は僕が彼女のことを語る資格なんてないのかもしれない。ましてやアドバイスなんて。とにかく、里見さんは世の中の人が思っているよりもずっと強いんですよ。これだけは間違いないし本当に強調したいですね」

 たまに話すことはあるそうだが、「飾ろうと思えばいくらも飾れる人でしょうが、そんなこともなく、本当に自然体ですね」と人物としても里見を称賛する。

 かつて里見は三段リーグを突破できなかった時、「三段リーグ突破が一番の目的でした」と話し、編入試験への挑戦などには否定的だったが、そこから一段と強くなって試験に挑戦した。20歳過ぎの頃は、体調面だったのか精神面だったのか、対局を一時「休場」したこともあって周囲を心配させたが、三十路を迎えてまさに心技体は充実している。

 今回、敗局後に里見は、「注目されることは嬉しい。大きな舞台で指せることはなかなかない。次もしっかり準備して臨みたい」と前を向いた。ちなみに瀬川は、編入試験の初戦を落としたが、盛り返して合格している。

 負けるな、香奈さん。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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